アウトドアーズの海成と、ネクサスドリーマーズの築山 諒真のシングルマッチ。

私が1つの試合の生成絵を少しずつ長期間に渡って公開する企画がありまして、
その後に立板三 様から絵に合わせた小説をご提供いただいた作品になります。

一部、フィクションな内容も含まれており、ファイプロの興行やストーリーと異なる点もございます。

※絵はAI生成です。小説はAI生成ではありません。

立板三様のアカウントはこちら

Pixiv : https://www.pixiv.net/users/119865949
X : https://x.com/tateitasan

第九十一幕:勝負を決める瞬間

リングの空気が変わった。

諒真が無言のまま海成の背後に回り込む。

【実】「おおっと!? 諒真、無言で海成の背後に回った!! ……完全に勝負を決めにきているぞ!!」

【観】「やばいっ!」
【観】「リョーマが動いた!!」
【観】「海成逃げろーっ!!」

会場がどよめく。

海成の体は、まだフロントキックのダメージから回復していない。

背後を取られた瞬間、全身の筋肉が悲鳴を上げた。

【海】(うぅっ……!! くそっ、体が動かねぇ……!)

海成は必死に体を動かそうとする。

だが、足が言うことを聞かない。

腕も重い。呼吸も乱れたままだ。

【海】(リョーマの奴、何を仕掛けてくるつもりだ!?)

諒真は無言のまま、海成の頭を両手でつかみ上げた。

その手には、まったく迷いがない。

まるで捕らえた獲物を絶対に逃がすまいと、静かに牙をむく獣のような雰囲気を漂わせている。

【諒】(海成――ここで決める)

諒真の心は冷静だった。

感情を殺し、ただ勝利だけを見据えている。

それが、彼の戦い方だった。

【海】「がっ……! てめぇ……! 離せ、リョーマ!!」

海成が叫ぶ。

必死にもがき、腕を振り回す。

【海】「チクショ……離せっての!!」

【実】「海成、必死の抵抗だが……動きが鈍い! 序盤からの打撃のダメージが、ここにきて響いているぞ!!」

【解】「体力の差が出ましたね。海成は軽量型の選手。反撃に全力を注ぎすぎたせいで、もうスタミナが残っていない」

諒真の腕の力は、どんどん増していく。

筋肉が隆起し、海成の頭が悲鳴を上げる。

顔が赤く染まり、呼吸が詰まる。

【諒】「……無駄だよ、海成。最初から僕の方がパワーは上なんだ」

諒真の声は、恐ろしいほど冷静だった。

まるで事実を淡々と告げているだけのように。

【諒】「しかも君はもう限界。無暗に攻め続けたツケが今、ここにきたんだよ」

【海】「……っ! ふざけんな……! まだ……終わってねぇ……!!」

海成は歯を食いしばる。

だが、体がまったく言うことを聞かない。

力が、どんどん抜けていく。

【諒】「だけど僕は違う。まだ君に見せていない技がある」

その言葉に、海成の目が大きく見開かれた。

【海】(まだ……技を隠してたのかよ……!?)

諒真の声は静かだ。

だが、その静けさが恐怖を増幅させる。

海成の背筋に、冷たいものが走った。

【諒】「僕の切り札──受けてもらうよ、海成」

【実】「出たぁーーっ!! 諒真、まさかの”切り札”宣言だ!! あの技を出すつもりかぁ!!?」

【観】「き、切り札!?」
【観】「まさかあの技!?」
【観】「やばい! 止めろぉーっ!!」

会場が一気に騒然となる。

観客たちは、諒真が何を仕掛けるのか知っているのだ。

そして、それがどれほど危険な技なのかも。

海成の頭を掴む手に、さらに力がこもる。

空気が震えるような静寂の中、海成は自分の心臓の音だけを聞いていた。

【海】(リョーマの奴……ほんとにやる気かよ……!)

海成の脳裏に、過去の試合が蘇る。

諒真が、この技で相手を完全に沈めた場面。

あの時の相手は、しばらく立ち上がれなかった。

【海】(確かに、まだいくつか技を出してねぇが、まさか温存しやがったなんて……)

諒真は、最初から計算していたのだ。

海成が全力で攻めてくることを。

そして、その体力が尽きたところで決める――すべてが、計画通りだったのだ。

【諒】(僕は弱い。だから、計算しなきゃ勝てない。感情を出したら、負ける)

諒真の心の中には、罪悪感もあった。

だが、それ以上に、勝利への執念があった。

【海】(チクショ…抜けられねぇ……! マジで、ヤベェ……!!)

その瞬間、リング全体が沸騰するような緊張感に包まれた。

観客のざわめきが波のように広がり、諒真の背中がゆっくりと弓なりに反る。

【実】「これはもう止まらない!! 諒真、ついに切り札発動かぁーーーっ!!」

勝負を決める”瞬間”が静かに、しかし確実に近づいていた。

第九十二幕:アイアンクロー

リングの上で、諒真がゆっくりと構えを取る。

その動きに、海成の体が反応した。

【海】(来る……!)

【諒】「まずは……これだよ!」

諒真の声は静かだった。

だが、その目には強い意志が宿っている。

諒真の手が、まるで獲物を捕らえる猛禽類のように海成に伸びる。

がっちりと腕を掴み、そのまま動きを封じた。

そして――大きく両手を広げ、海成の顔面を鷲掴みにする。

鋼のような指が、額から頬にかけて容赦なく食い込んでいく。

【海】「う、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

海成の悲鳴が、会場中に響き渡った。

それは演技ではない。紛れもない、本物の苦痛の叫びだ。

【観】「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
【観】「顔が、潰れるぞこれ!!」

観客席がどよめく。

誰もが息を呑んで、リング上の光景を見つめていた。

【解】「出ましたね……! アイアンクロー! これは諒真の代名詞ともいえる技です!」

【実】「出たぁぁぁぁぁっ!! 諒真のアイアンクロー!! 指先の握力がまるで鉄の爪だぁぁぁ!!」

プロレスでは、痛がる演技も試合の一部だ。

だが――今、海成が上げている悲鳴は、完全に”本物”だった。

顔が、指の圧力で軋んでいる。

呼吸が乱れ、視界が白く染まっていく。

【解】「この技は非常にシンプルですが、諒真の握力でかけられたら洒落になりません! 相手をギブアップさせることも十分に可能です!」

海成の頭の中で、ある記憶が蘇る。

海】(やっべぇ……マジで頭が割れる……! いや、それより――これ、前にもやられたやつじゃねぇか!

諒真のデビュー戦。

あの日、海成はこの技で絞め落とされ、場外に放り投げられた。

屈辱の敗北。忘れられない痛みと恥。

【海】(まさか……リョーマ、俺を潰す時はこの技って決めてんのか!?)

だが、今回はあの時とは違う。

諒真は片手ではなく、両手で海成の頭を挟み込んでいる。

まるで巨大な万力のように、完全に動きを封じている。

【諒】(海成――君は強い。だからこそ、僕は手を抜かない)

諒真の心の中にあるのは、憎しみではなかった。

それは敬意であり、挑戦であり――同時に、自分自身を試す覚悟でもあった。

【実】「諒真は完全に海成をクラッチした!! 両手で頭を鷲掴みにしてるぅぅぅ!!」

【解】「これはまずい! 逃げ場がありません! 諒真が勝負を決めにきました!!」

【海】(ぐっ……やめろっ……てめぇ……本気で潰す気かよぉぉぉ!!)

海成は必死に腕を掴もうとするが、力が入らない。

全身が痺れ、視界が揺れる。

痛みと屈辱と、悔しさ。

全部が混ざって、胸の奥で爆発しそうになる。

【諒】「どうした、海成! これがトラウマなら――今日ここで、乗り越えてみろよッ!!」

諒真の声には、挑発ではなく激励が込められていた。

彼は海成を倒したいのではない。

海成に、もっと強くなってほしいのだ。

【海】「だ、誰が……! お前なんかに、潰されてたまるかぁぁぁぁ!!」

【観】「うおおおおおおっ!! 海成が叫んだぁぁぁぁぁ!!」

【実】「だが抜けられないっ! 諒真の指が、顔面を押し潰しているぅぅぅぅ!!」

海成の心の中で、何かが激しく揺れ動く。

【海】(リョーマ……! お前、ほんとは俺のこと嫌いなんじゃねぇのか……!? それとも――俺を、認めてほしいのか!?)

諒真の目は真剣だった。

そこに憎しみはなかった。

ただ、ひとりの男として”超えるべき相手”を見ている目だった。

【諒】(海成――君は、僕が認めた男だ。だからこそ、全力で挑む!!)

【実】「アイアンクローが決まっているぅぅぅぅ!! 海成、どうする!? これは脱出不可能かぁぁぁぁ!!」

【観】「頑張れぇぇぇぇぇぇぇ!! 海成ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

会場が割れんばかりの声援に包まれる。

その中で、海成は歯を食いしばった。

【海】「――俺は、もう負けねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

だが、その叫びも虚しく、諒真の握力がさらに強くなる。

海成の体が沈み、マットが震えた。

【実】「ぐあぁぁぁぁぁっ!! ついに海成、崩れ落ちたぁぁぁぁ!! 完全に決まったぁぁぁぁ!!」

観客が悲鳴を上げる中、海成の意識が遠のいていった――

第九十三幕:海成の覚悟

【実】「おっと! ここで諒真が、海成の頭を締め上げていたアイアンクローを解いたぁ!!」

【解】「続けて攻めてもよかったんですがね。彼はあえて手を離しました。何か考えがあるんでしょう」

諒真は荒く息を吐きながら、海成を見下ろしていた。

【諒】(よし……これくらいで十分だ)

アイアンクローのダメージで、海成の目は虚ろになっていた。

立っているのがやっとだ。

それでも、倒れない。

その姿に、諒真の胸の奥が熱くなる。

【諒】(……本当に無茶するよね、海成)
【諒】(そんなに無理をしてまで負けたくないのか……らしいといえばらしいけど)

昔からそうだった。

練習でも、試合でも、海成は決して諦めなかった。

勝ちたいという気持ちの強さが、時に自分の体すら壊すほどに我慢させてしまう。

【解】「海成は負けず嫌いで有名ですからね。あのまま続けていたら、本当に危険だったでしょう」

【実】「諒真、冷静な判断です! しかし――これは勝負を捨てたわけではない!!」

【諒】(僕が欲しいのは、海成を壊す勝利じゃない。彼と全力でぶつかって――その上で掴む”勝ち”だ)

諒真は右腕に力を込めた。

重いダメージが残っており、力を入れるだけで激痛が走る。

それでも仕方がない。

【諒】(痛い……でも……)

彼には、どうしてもこの試合で決めたい技があった。

ついこの間、ファンの声で名前が決まった新しい必殺技。

自分の想いを全て込めた渾身の一撃だ。

【実】「諒真、構えたぁっ!! これは……まさか、あの新技か!? ファンの間で話題の――!」

【観】「うおおおおおっ!! 見せてくれ、諒真!! 決めろーー!!」

【諒】(海成、君の必殺技は見せてもらった……今度は、僕の番だ!)

諒真の右腕がしなる。

全身の筋肉が悲鳴を上げ、汗が飛び散る。

目の前の海成は、まだ完全には意識を取り戻していない。

だが――その立ち姿に、意地と誇りが残っていた。

【海】「……うぅ…まだ……だ…!」

海成の声がかすれている。

【海】「まだ、終わって…ねぇ……」
【海】(……立て……立つんだ……俺……)

海成の視界はぼやけていた。

頭の中がぐらぐら揺れる。

それでも――足は動いた。

【海】(リョーマ……お前の新技……見せてくれよ……)
【海】(俺は……全部受け止める……!)

【諒】「いくよ、海成……これが僕の必殺技だ!」

【実】「来たぁぁぁ!! 諒真、渾身のフィニッシュムーブに入った!! 海成は……避けられないッ!!」

【観】「いけええええっ!! 決めろぉぉぉ!!」

リングの空気が震える。

その瞬間、二人の思いがぶつかり合う。

痛みも、恐れも、友情も――すべてを賭けた一撃。

【諒】(……ありがとう、海成)

【海】(……来いよ、リョーマ……!)

二人の視線が交差した。

そして――

第九十四幕:フィニッシュ宣言

【実】「さぁーーッ!! 試合は終盤戦ッ!! 両者、限界ギリギリの攻防が続くッ!!」

リング中央。

海成は足をふらつかせながらも、なんとか立っていた。

視界がゆがみ、ライトの光が滲んで見える。

頭の中がぐらぐら揺れる――もう何発、あの技を食らったのかも覚えていない。

【海】(立ってるのか、俺……? もう、どこが痛いのかも分かんねぇ……)

それでも、倒れられなかった。

この試合だけは、絶対に最後まで立っていたかった。

あの日、諒真に言った自分の言葉が胸をよぎる。

【海】(……あの時……)

――「勝ち負けじゃなくて、”全部出しきる”こと。それがプロレスだよな」

【海】(あの時、俺はお前にそう言ったよな、リョーマ。なら、俺も……まだ終わらねぇ)

海成はよろめきながら、その場に踏みとどまり続ける。

【観】「海成、まだ立ってるぞ!」
【観】「すげぇ……まだ諦めてねぇのか!」

【解】「海成選手、もう意識が朦朧としているはずです! それでも立ち続けている!」 

その姿を、諒真は静かに見つめていた。

【諒】(……海成……)

リングの中央。諒真はゆっくりと息を吐いた。

海成はまだ立っている。だが、足取りは完全に乱れていた。

視線は定まらず、息も荒い。限界はすぐそこに見える。

【諒】(今なら、決められる……。でも、まだだ。まだ終わっちゃいけない)

諒真の胸の奥で、闘志とは別の熱が燃えていた。

【諒】(勝利だけがプロレスじゃない……)

見てくれているファンがいる。

リングの上で生きる者には、最後まで”見せる責任”がある。

諒真は顔を上げ、まばゆいライトを真正面から受け止めた。

その目に迷いはない。

【実】「おっとーーー! 諒真、ここで顔を上げた! その表情は決意でみなぎっている
ぞ!!」

会場がざわめく。観客の目が一斉にリングへと向けられた。

【観】「うわっ、あのポーズ……!」
【観】「まさか――アレをやる気か!?」

諒真は両手を高く掲げ、ゆっくりと腕を曲げる。

その姿勢は、まるでボディビルの「ダブルバイセップス」。

隆起する二の腕、きらめく汗、全身の筋肉がライトを反射して輝く。

【実】「出たぁぁーーー!! 諒真のダブルバイセップスポーズだぁ!!」

【解】「これは単なるパフォーマンスじゃありません。彼にとっての戦いの”宣言”です。力を誇ることで、闘志を観客と共有している!」

諒真はそのまま、叫んだ。

【諒】「行くぞーーーッ!!」

【実】「キタァァァァーー!! フィニッシュ宣言だッ!!」

爆発するような歓声。 観客が立ち上がり、リングサイドの空気が震える。

【観】「いけぇぇぇぇッ!!」
【観】「終わらせろ、諒真ーーッ!!」

リング全体を包み込むような熱狂の中、諒真は再び視線を海成に向けた。

【諒】(ここまで、よく耐えたよね、海成……。君がいなきゃ、この試合は成立しなかった)

そう、心の中でつぶやく。

【諒】(……ありがとう)

だが、次の瞬間にはもう、ファイターの顔に戻っていた。

【実】「さぁ、ついに終幕か!? 諒真の渾身の一撃が、今――放たれるッ!!」

ライトが眩しく輝く中、諒真の身体が跳ねた。

全身の力を込めた一撃――その瞬間、リングが揺れた。

――観客の歓声が、天井を突き抜けた。

第九十五幕:ライトニングヘル・ラリアット

【実】「さぁッ! 諒真が――走ったぁぁぁ!!!」

【観】「うおおおおおッ!!!」

【実】「ロープに走り込み、反動を最大限に使って――加速する!! この一撃にすべてを懸けたぁッ!!」

諒真がロープの反動を使って跳び出す。

速度が一気に爆発した。

空気を切り裂く音が鳴る――

諒真の身体が、まるで電撃のように弾けた。

【諒】(足が……重い……)

足は鉛のように重い。肺は焼けるように痛い。

それでも――止まれなかった。

【諒】(止まらない……!)

諒真が全速力で走り出す。

その一歩一歩が、リングを震わせた。

まるで自分の全人生を、この数メートルの走りに込めているかのようだった。

【諒】(不思議だ……もう走る力なんて残ってないはずなのに、体が軽く感じる……)

【解】「諒真、もう体力はゼロに近いはずです! それでも動けるのは、気力だけですよ!」

【実】「限界を超えてなお、走る! それが諒真だッ!!」

リング中央。

そこに、意識を失いかけながらも立ち続ける海成がいた。

【海】(……来るのか……リョーマ……)

膝は笑い、視界は滲み、音は遠い。

それでも――海成は前を見ていた。

【海】(来いよ、諒真……。お前の全力、全部受け止めてやる……)

倒れそうな体を気力だけで支える。

もはや奇跡に近かった。

だが、立つことをやめたら、もう終わりだと分かっていた。

【海】「……来いよ、リョーマ!!!」

声はかすれている。

それでも確かに、諒真の耳にはその声が届いた。

【諒】(……海成!)

海成は揺れる体を前に出した。

まるで自分から天より降り注ぐ”雷”を迎えにいくように。

【諒】「いくぞ、海成ーーーッ!!!」

諒真の体が風を裂き、雷のような勢いで突進する。

その姿は、誰よりも強く、誰よりも美しかった。

【実】「諒真ーーッ!! 加速するッ! まるで稲妻だァァァ!!」

【観】「リョーマ! リョーマ! リョーマ!」

諒真は最後の一歩を踏みしめ、腕を振り抜く。

雷鳴のような音と共に、空気が弾けた。

【実】「出たァァァ――!! ライトニング・ヘル・ラリアットォォォ!!!」

【観】「うおおおおおおッ!!!」

【解】「まさに電光石火ッ! 反動と気力、すべてを乗せた一撃です!!」

その瞬間、諒真の脳裏に一瞬だけ過去がよぎった。

【諒】(……あの日……)

あの日、ネクドリに入団することを悩んでいた自分に「お互い、強くなろうぜ」と言って背中を押してくれた海成の姿。

【諒】(君が……僕を、ここまで連れてきてくれたんだ……)

だからこそ、この一撃は――感謝でもあり、答えでもあった。

【諒】「これが……僕の答えだ!!!」

諒真の腕が閃光のように走り、稲妻のごとく振り抜かれる。

それはもはや”技”ではなかった。

魂を叩きつける”意志の一撃”だった。

【海】(……ああ……)

海成は、その光景をスローモーションのように見ていた。

【海】(お前は……本当に強くなったな……)

悔しさはない。

ただ――誇らしかった。

【解】「信じられません! 完全に気力だけで動いています! ですが、その走りは……まるで雷だ!!」

その光景に観客が息をのむ。

まばゆいライトの中、二人の影が交差する。

第九十六幕:必殺

【観】「リョーマ! リョーマ! リョーマ!」

【実】「おおっと! 諒真、ロープに振られるッ!!」

諒真の体がロープに跳ね返る。

スピードが乗る。加速する。

そして――右腕を振りかぶった。

【諒】(……今だッ!!)

【実】「決まったぁぁぁッ!! 諒真の――ライトニング・ヘル・ラリアットォォォ!!!」

【観】「うおおおおおおおおッ!!!」

【解】「雷光のような速さ! あれはもう”技”というより”閃光”です!!」

諒真の右腕が、まるで稲妻のように走った。

それは一条の雷のように海成の首を薙ぎ払う。

ロープの反動を全身に伝え、渾身の力で振り抜いた瞬間――激痛が右肩を突き抜ける。

【諒】(……ぐっ……!! やっぱり、無理があったか……)

試合中に何度も叩きつけられた右腕は、とっくに限界を超えていた。

それでも、諒真は引けなかった。

【諒】(でも、右腕で撃ち込まなければ、海成には勝てない……!)

歯を食いしばり、腕の筋繊維が悲鳴を上げるのを無理やり抑え込む。

その痛みさえも、諒真は燃料に変えた。

【実】「うおおッ!! 雷が落ちたぁぁッ!! 海成の首に直撃ゥゥ!!!」

【海】「がッ……!?」

海成の体が宙を舞う。

視界がぐるりと回転した。

【海】「え……あ……?」

呆けた声が漏れた。

海成は、何が起きたのか一瞬理解できなかった。

気づけば体がぐるりと宙を舞い、視界が一回転していた。

――ドスンッ!

背中からマットに叩きつけられた瞬間、世界が白く弾けた。

頭の奥で爆発するような音がした。

それなのに、痛みはなかった。

代わりに、体の感覚が遠ざかっていく。

全身の感覚が、ただ白く消えていく。

【海】(……なんだ、これ……体が……)
【海】(動かねぇ……指一本、動かねぇ……)
【海】(あぁ……これが”ライトニングヘル”ってやつか……)

目の裏に閃光が走る。

その光をぼんやりと見つめながら、奇妙に落ち着いた心で、海成はそう思った。

【実】「海成、まったく動けないッ!! あの衝撃は尋常じゃありません!!」

【観】「リョーマぁぁ!! スゲぇぇ!!!」

【解】「これは……命を削る一撃です! 諒真の右腕も限界を超えているはず!!」

【海】(こりゃあ……ヤベぇどころじゃねぇわ……。リョーマ……お前、ほんとにスゲぇよ)

悔しさはある。

でも、それ以上に――誇らしかった。

あの諒真が、ここまで強くなった。

かつて同じ夢を追い、夜通しスパーリングをした日々が脳裏をよぎる。

それが今、このリングで、最高の形で終わろうとしている。

【海】(……負けたな、こりゃあ)

指一本、動かせない。

フォールされれば終わりだ。

でも、もう充分だった。

胸の奥が熱くて、涙が出そうだった。

【諒】(腕が……動かない……)

諒真は自分の右腕を押さえ、うずくまった。

激痛が波のように押し寄せ、呼吸さえままならない。

【諒】(折れてる……かもしれない……でも――これでいいんだ)

ぼやける視界の先には、マットに倒れた海成の姿。

その姿を見た瞬間、諒真の胸が熱くなった。

【諒】(今まで何度もリングの上で倒されて、その度に泣きそうになって……それでも君がいたから、僕は強くなれたんだ)
【諒】「……ありがとう、海成」

マットに伏せたまま、海成が小さく笑った。

【海】「……あぁ……お前、やったな……リョーマ」
【海】(やっぱ、お前はスゲぇよ。ずっと追いかけてきた甲斐があったぜ)

目の前の光景が、まるで夢のように滲む。

悔しさよりも、ただ――清々しかった。

諒真も、痛みをこらえながら、小さく笑った。

【諒】(……僕も、だよ)
【諒】(君がいなかったら……僕は、ここにいない)

【実】「両者、限界を超えた死闘ッ!! この一撃に、魂がすべて込められていました!!!」

【観】「リョーマぁぁ!! カイセーいぃぃ!!!」

【解】「まさに”友情と闘志”の結晶です……技でも力でもない、”想い”がぶつかり合いました!」

第九十七幕:決着

海成の意識が、すぅっと闇に溶けていった。

体の力が完全に抜け落ちる。もう指一本動かせない。

最後に聞こえたのは——自分の心臓の鼓動と、歓声の遠い残響だけ。

【海】(……やっぱり……もう、動かねぇか)

海成の心の中で、静かに呟く。

【海】(でも、この試合……全力は出せた……よな)

体の芯が抜け落ちるような感覚。まるで、魂が体から離れていくようだ。

それでも——彼の表情は、どこか満足げだった。やり切った者だけが浮かべられる、穏やかな笑みが唇に浮かんでいる。

そのすぐそばで、諒真が立っていた。

右腕は激痛で感覚がほとんどない。肩は焼けるように熱く、呼吸のたびに痛みが走る。全身が悲鳴を上げている。

だが——まだ倒れられない。

【諒】(これが……君がいつも言ってる”最後まで立ってる根性”か)

諒真は海成を見下ろしながら、心の中で敬意を表した。

【諒】(やっぱりすごいね、海成は)

鉛のように重くなった体を引きずりながら、諒真は海成のもとへ膝をつく。一歩踏み出すたびに、足が震える。

諒真は両手で海成の肩を押さえ込んだ。かすれた息でレフェリーを見上げる。

レフェリーの手が上がる——カウントが始まる。

【実】「フォール! フォール入りましたァァァ!! カウントです!!」

実況の声が会場に響く。

【実】「ワァァァァーン!!!」

観客が息を止める。

会場全体が、音もなく時を止めたように静まり返った。誰もが祈るように、リングの上にいる二人を見つめている。まるで世界がその瞬間だけ止まったかのようだ。

【実】「ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

レフェリーの手が二度目のマットを叩く。

まだ海成は動かない。諒真の腕も震えている。

時間が——永遠のように長く感じられる。

【実】「スリィィィィィィィィィ!!!!!」

三度目——。

――カンカンカンカンカン!!!

ゴングの音が響き渡る。

【実】「決まったぁぁぁぁ!! 試合終了ッ!! 勝者、築山諒真ーーーッ!!!」

その瞬間——会場が爆発した。

観客の涙、叫び、拍手。すべてが混ざり合い、会場全体を揺らす。座席が、床が、空気が震えている。

【観】「うわぁぁぁぁぁ!! 二人ともすげぇぇぇぇ!!」
【観】「今日の試合、一生忘れられねぇよ!!!」
【観】「最高だーーーッ!!」

【実】「何という試合でしょうか!! 二人の魂がぶつかり合った、まさに死闘でした!!」

諒真は立ち上がろうとして——すぐに膝をつく。

息が乱れ、視界がかすむ。汗が目に入って、涙のように流れ落ちる。

けれど、諒真は静かに呟いた。

【諒】「海成……君がいたから、僕はここまでこれたんだ」

そして、誰にも聞こえないほどの小さな声で——本当に、誰にも聞こえないくらい小さな声で、続けた。

【諒】「ありがとう」

照明の光が、二人の上に降り注ぐ。

リングの中央に横たわる海成と、その隣で膝をつく諒真——。

その姿はまるで、戦い抜いた戦士たちの絆を語っているようだった。

第九十八幕:リョーマコール

【実】「ついに……ついに決着ーーーッ!!」

実況の声が会場全体に響き渡る。

【実】「長き戦いの幕が下りる! そして勝者は……築山諒真ーーーッ!!」

カウント・スリー。

諒真は海成をリングに押さえ込んでいたフォールをゆっくりと解き、全身の力を解放した。汗が滴り落ちる。息が荒い。それでも、諒真は立ち上がった。

リング中央へ——。

そして拳を高く、天に向かって突き上げる。

【諒】「うぉぉぉぉ!! 僕の勝ちだ!!」

魂からの咆哮。

勝利の雄たけびが、会場の隅々まで届く。

その瞬間——会場が爆発した。

【観】「リョーマーーー!!」
【観】「最高だーーー!!」
【観】「うおおおおお!!」

観客たちが総立ちになる。拍手の音が雷のように響き、歓声が会場を揺るがした。座席が振動するほどの熱狂だ。

【実】「信じられない試合でした! 築山諒真、見事な勝利です!!」

一方——。

海成はまだリングに倒れたままだった。

荒い呼吸が続く。胸が激しく上下している。痛みと疲れで、体にはまったく力が入らない。指一本動かすのもやっとだ。

だが——耳に入る歓声。

それが海成の心に染み込んでくる。

思わず、笑みが浮かんだ。

悔しさと達成感が混ざった、複雑な表情。負けた悔しさはある。だけど、それ以上に——やり切った満足感があった。

【海】(チクショー……負けちまったか)

海成の心の中で、感情が渦巻く。

【海】(でも、リョーマの全力、初めて見たぜ。すげぇ迫力だったわ……)

リング中央で拳を突き上げる諒真の姿が、海成の目に映る。

【海】(あいつ、やり切った顔してるなぁ……)

その表情は、どこか誇らしげだった。

【海】(とりあえず、リョーマの勝利は祝ってやらねぇとな……)

諒真は汗まみれの体を揺らしながら、リング中央で何度も拳を天に突き上げる。その姿は、まるで勝利の象徴のようだ。

【実】「築山諒真! 彼の成長を目の当たりにした瞬間です!!」

【観】「リョーマ! リョーマ! リョーマ!」

観客たちのコールが始まる。会場全体が一つになった。

海成もその様子を見て、倒れたまま——それでも、拳を握りしめた。

友の勝利を、心から讃える。

会場全体が熱狂の渦に包まれる中、二人の戦いの物語は静かに、そして確かに刻まれていった。

第九十九幕:海成の決意

リングの上で仰向けに倒れたまま、海成は天井を見つめていた。

体が重い。全身が悲鳴を上げている。立ち上がる気力も、体力も残っていなかった。

【海】(……っ、クソ……まだ立てねぇ……)

天井のライトが眩しい。観客の歓声が耳に届く。だが、体はピクリとも動かなかった。

ただ、頭だけは妙にクリアだった。今日の試合の流れが、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

【海】(最初は……まぁ、うまくいってたんだよな)

海成は小さく息を吐いた。

試合序盤。諒真とアイコンタクトを交わした時のことを思い出す。

お互いの目が合った瞬間、「無茶はしない」という無言の約束が交わされた。

プロレスはショーだ。観客を楽しませるための「戦い」だ。

本気で潰し合う場所じゃない。

プロレスの「お約束」を守りながら、観客を沸かせる――そういう試合運びができていたはずだった。

【海】(……けど、途中から本気になっちまった。俺も、リョーマも……)

気づけば、プロレスが「ショー」であることを忘れていた。二人とも、ただ勝つことだけを考えて夢中になって戦っていた。
打撃の応酬。スタミナの削り合い。力と力のぶつかり合い。

どれも海成にとって不利な戦い方だった。パワーファイターである諒真は体格で勝る。パワーでも上だ。それなのに、海成は真っ向勝負を挑んでしまった。

【海】(……バカだな、俺……。完全に試合運びをミスってた。冷静さも欠いてた)

敗因ははっきりしている。海成自身が一番よく分かっていた。

沈黙が重くのしかかる。

そして――

【海】(……本当に勝つ気だったなら、最初からアイツの右腕を狙えばよかったんだ)

その考えが浮かんだ瞬間、海成の胸が痛んだ。

諒真の右腕は負傷している。それは試合前から知っていた。

海成の得意技は膝蹴りを中心とするキックだ。あの鋭い蹴りを、序盤から右腕に集中して叩き込めば――

【海】(……アイツの腕は、確実にイカれてた。そうすれば、俺の勝ちだった)

勝ちは確定していただろう。

【海】(……でも、そんなこと、できるわけねぇだろ……)

海成は目を閉じた。

こいつには負けられない。その気持ちは本物だ。

だが、諒真は友人だ。仲間だ。大切な……ライバルだ。

どれだけ勝ちたくても、海成は非情にはなれなかった。

【海】(もしアイツの右腕を本気で狙ったら……半年前の悲劇を繰り返すだけだ)

半年前――

リョーマは練習中に大怪我を負った。

ドクターストップがかかり、半年もの間リングに立てなかった。

デビューも大幅に遅れた。

あの時のリョーマの顔が、今でも忘れられない。

悔しさと絶望に押しつぶされそうな、あの表情。

【海】(……リョーマのあんな顔、二度と見たくねぇよ……)

だから、海成は右腕を本気で狙えなかった。

試合の最後、必殺技を放った時も――

ローリング・オポジットクロス。前転式飛びつき腕ひしぎ逆十字。

リョーマの右腕を極める技だった。

でも、きっと無意識に力を緩めていた。

【海】(本気で極めてたら、アイツの肘は完全に壊れてた。でも……できなかった)

そして、リョーマもまた相当に無茶をしていた。

海成の脳裏に、試合終盤の光景が蘇る。

リョーマの最後のラリアット。

あの一撃が、海成の意識を吹き飛ばした。

【海】(……あのバカ、よりにもよって右腕で打ちやがった……! 止めのラリアットなんて、左腕でも十分決まるってのに……!)

リョーマは負傷している右腕を使った。

わざわざ、痛めている腕で。

【海】(無茶しやがって……大事な時期だってのに……)

また右腕を壊したらどうするつもりだ。

今もリョーマは腕を動かせている。靭帯までは切れていないようだ。

しかし、相当に痛めているはずだ。

その証拠にリングの向こうで、リョーマが時折顔をしかめている。辛そうな表情を隠しきれていない。

【海】(……アホかよ、あいつ)

怒りと心配が、ごちゃ混ぜになって胸を締めつける。

海成はゆっくりと目を開けた。天井のライトが眩しい。

【海】(もし、リョーマが万全のコンディションだったら……)

海成の思考が、別の方向へと向かう。

【海】(……今の俺じゃ、絶対に勝ち目はねぇな……)

それは負けず嫌いの海成にとって、認めたくない現実だった。

だが、冷静に考えればすぐに分かることだ。

今の海成には、攻撃力が足りない。圧倒的に足りない。

諒真だけではない。ネクドリやアウトドアーズの選手たち――みんなが今の海成よりも強い。

【海】(気合と根性だけじゃ……もう通用しねぇんだよな……)

今まではそれでも何とかなっていた。

でも、その間に他の選手たちはどんどん成長していった。

海成は、置いていかれている。

【海】(今年の下半期……俺の戦績、ボロボロだもんな……)

負けが続いた。勝てる相手にも負けた。

そして、遅れてデビューしてきたリョーマに――圧倒的な才能の差を見せつけられた。

プロレスラーとしての潜在力が、まるで違う。

【海】(このままじゃ……どうあがいてもリョーマたちに勝てねぇ……)

その言葉が、リングに静かに響く。

観客の歓声も、今は遠く聞こえる。

悔しい。悔しくて、悔しくて、たまらない。

でも――

【海】(……俺には、何か別の武器が必要だ)

海成の胸の奥で、静かな炎が燃え上がる。

【海】(リョーマにも……他の奴らにも負けねぇ……そんな力を……」

拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込む。

【海】(……俺は身につけなきゃ、いけねぇんだ……!)

自分だけの、誰にも真似できない技。

それを手に入れなければ、プロレスラーとしてこの先の未来はない。

海成の負けず嫌いな魂が、静かに、しかし激しく燃え始めた。

【海】(絶対に……強くなってやる……! リベンジしてやる!!)

観客の歓声に応えている諒真に目をやった海成は、決意を新たにする。

【海】(……次は負けねぇ。絶対に……だ!)

その言葉は、自分自身への誓いだった。

第百幕:立ち上がる二人

観客に応え終えた諒真は、リングに倒れている海成の下に近づいた。

片膝をつき、耳元でささやく。

【諒】「海成、立てるかい?」

【海】「……なんとか…な」

海成は自力で立ち上がろうとする。

だが、ダメージは想像以上に重い。

体が言うことを聞かず、まだうまくいかない。

【海】(くそっ……立てねぇ……)

海成の心の中には、悔しさがあった。

諒真の前で、こんなみっともない姿を見せたくない。

【諒】「僕の体につかまって」

諒真が海成の脇に手を入れて、補助に入ろうとする。

しかしーー

【海】「余計なこと……すんじゃねぇ……」

海成はその手をはたき、諒真の補助を断る。

【諒】(……何だよ、この期に及んで)

この期に及んで強がるつもりか。

負けず嫌いにもほどがある。

最初は海成の態度に怒りが込み上げてきた諒真だったが――かすれる声で告げる海成の次の言葉を聞いて、考えを改める。

【海】「右、使うな……!」

【諒】「……!」

海成は不器用ながらも、負傷している諒真の右腕を心配していたのだ。

【諒】(海成……そういうことか……)

自分の方がボロボロな状態だというのに、自分の方を心配するだなんて。

どこまで意地っ張りで強情で、兄貴分をやりたがる奴なんだろう。

【諒】(それが……海成という男なんだよね)

それこそが自分の憧れ、惚れ込んだ海成という男なのだと理解していても、一人っ子で兄弟がいない諒真からすると、理解しきれない部分でもあった。

海成には弟がいるという。

ずっと兄として生きてきた分、自分の事をどうしても友人というより弟分として扱いたがる傾向がある。

【諒】(それが嬉しくもあり……時には、うっとおしく感じることもあった)

諒真の心の中には、複雑な感情があった。

海成の優しさは嬉しい。

だが同時に――対等な存在として見てほしいという想いもあった。

【海】(リョーマは……俺が守らなきゃいけねぇ……)

海成の心の中には、強い想いがあった。

諒真は、自分が見守ってきた存在だ。

だからこそ――守り続けたい。

ここまできて尚、筋金入りの兄貴分らしさを見せつけられては、さすがにもう諒真は自分が弟分であることを受け入れざるを得ない。

海成の頑固さに負けを認め、苦笑しながら諒真は告げた。

【諒】「大丈夫だよ、海成。こっちは左だから。右に負担はかけないようにしてる」

【海】「……それなら、いい」
【海】(リョーマ……お前、本当に強くなったな……)

海成の心の中には、複雑な感情があった。

諒真の成長を嬉しく思う気持ちと――同時に、少し寂しい気持ち。

海成は諒真の体につかまり、ゆっくりと起き上がる。

【観】「うおおおっ!!」
【観】「二人とも立った!!」
【観】「すげぇぇぇ!!」

会場が拍手と歓声に包まれる。

【海】「腕、大丈夫か?」

【諒】「……あまり良くはない」

ここで強がって嘘をついても仕方がない。

海成にはあえて本当の事を告げることにした。

【諒】(彼には……嘘をつきたくない)

【海】「……早く、病院いけよ」

【諒】「君もね、海成」

【海】「へっ、これぐらい大丈夫だって、の……」

強がる海成だったが、普段のふてぶてしいまでに自信に満ちた笑みを浮かべられず、苦しそうな顔をしている。

その時点で相当ダメージが重いことが諒真にはうかがえた。

【諒】(……本当に、無理しないでほしいんだけど)

諒真は心の中で苦笑する。

海成は、きっと変わらない。

いつまでも、自分の兄貴分でいようとする。

【諒】(でも……それが海成だから。だから僕は、彼を慕っているんだ)