アウトドアーズの海成と、ネクサスドリーマーズの築山 諒真のシングルマッチ。

私が1つの試合の生成絵を少しずつ長期間に渡って公開する企画がありまして、
その後に立板三 様から絵に合わせた小説をご提供いただいた作品になります。

一部、フィクションな内容も含まれており、ファイプロの興行やストーリーと異なる点もございます。

※絵はAI生成です。小説はAI生成ではありません。

立板三様のアカウントはこちら

Pixiv : https://www.pixiv.net/users/119865949
X : https://x.com/tateitasan

第八十一幕:一本背負い

リング中央。

激しい打ち合いの末、両者は同時に倒れ込んでいた。

「ダブルダウン」――どちらも立ち上がれない状態だ。

場内に緊張が走る中、先に立ち上がったのは海成だった。

【海】(よし……立てた……! リョーマより先に……!)

海成の全身は悲鳴を上げていた。

足が震え、視界がぼやける。

だが――まだ、戦える。

本来ならそのまま覆いかぶさってフォールすれば、勝利は確実だったはずだ。

【海】(このまま押さえ込めば……勝てる……)

だが――海成の心の中には、迷いがあった。

このまま終わらせていいのか?

諒真は、本当にこれで納得するのか?

【海】(いや……違う。これじゃダメだ)

海成は動いた。

倒れている諒真の髪の毛を掴み、無理やり体を引き起こすと、その腕を掴んだ。

そして、柔道仕込みの一本背負いを仕掛けたのだ。

【海】「うぉぉぉらぁぁぁぁぁ!! 目ェ覚ませ、リョーマァァァァ!!!」

【実】「おおっと!? 海成、ここでまさかの一本背負いだ!! 柔道技を持ち出してきました!!」

【解】「これは……リスクが高すぎます! しかも相手は築山、まだ余力を残しているかもしれません!」

【観】「うわぁぁ!!」
【観】「投げる気か!? こんな場面で!?」
【観】「海成ーーっ!!」

【諒】(な、何を考えているんだ、海成!?)

海成に一本背負いを仕掛けられた諒真は、心の中で絶叫していた。

胴着もなければ、体重差も明らかに一階級以上ある。

常識で考えれば、あまりにも無謀な選択だった。

【海】(わかってんだよ、んなこと……!! でもな、これが俺のやり方だぜ!)

海成の心の中には、強い想いがあった。

諒真を、ただ倒すだけでは意味がない。

諒真が全力を出し切って――それでも勝つことに、意味がある。

しかも海成が掴んでいるのは、負傷している諒真の右腕。

だが――そこには海成なりの計算があった。

【海】(リョーマが……左肩から受け身を取れるように……!)

投げられた時、諒真が無傷の左肩から安全に受け身を取れるように、あえて痛めている腕を利用しているのだ。

【海】(怪我はさせたくねぇ……でも、本気で戦いたい……だとしたら、これしかねぇ!)

【実】「しかしこれはリスクが高い! 体重差がありすぎる!!」

【観】「海成ーーっ!!」
【観】「諒真、反撃だぁぁぁ!!」

【諒】(……まったく。こういうところが海成らしいよね)

試合を盛り上げるための大胆な動き。

そして、不器用ながらも相手を傷つけぬよう配慮した心遣い。

その二つを両立させようとする海成の姿に、諒真は思わず心の中で苦笑した。

【諒】(昔から……君はそうだった……)

デビュー当初、海成はいつも諒真を気遣ってくれた。

弱かった自分を、見守ってくれた。

だが――もう、昔とは違う。

【諒】(でも……)

だが同時に――ふつふつと怒りが湧き上がる。

【諒】(ちょっと調子に乗りすぎだよ、海成!)

諒真の心の中で、何かが燃え上がる。

それは、プロレスラーとしての誇りであり――同時に、海成への答えでもあった。

【諒】(僕は君の弟分でもなければ、ただの後輩でもないんだ! 僕の怪我のことばかり気にするのはやめろ!!)

諒真の瞳が、鋭く光る。

【諒】(同じリングに立つレスラーなんだぞ!! それにもそもそも、君と僕はライバル団体に所属する敵対するレスラー同士……つぶし合う関係のはずだ。だったら――全力で来い! そして、僕も全力で返す!!)

海成に無理やり体を引き上げられながらも、諒真は反撃の機会を、虎視眈々とうかがっていた。

第八十二幕:投げられる諒真

【観】「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

会場が一瞬で沸き立った。

海成の一本背負いが炸裂した瞬間、諒真の体は宙を舞った。

時間が止まったように感じられる。自分の身に起きたことが、諒真にはすぐには信じられなかった。

【諒】(まさか……僕を投げるのに成功したというのか、海成!?)

体格も状況も不利なはずの海成。その海成が、まさかここで一本背負いを成立させるとは。
それは無謀を超えた、奇跡にも近い所業だった。

確かに、掴まれた瞬間、諒真の足はわずかにマットから浮いた。

だが諒真は、それが限界だと思っていた。いずれ海成が力尽き、その場でうずくまる――そう予想していたのだ。

【諒】(僕と海成の体格差は歴然としている。無理だと思っていたのに……!)

ところが、現実は違った。

今まさに、自分の体は一回り小柄な海成によって、鮮やかに背負い投げられている。そして無情にも、マットの上へ叩きつけられようとしている。

一方、海成の心の中は――。

【海】(やった……やってやったぜ! 俺の柔道歴をなめるんじゃねぇよ、リョーマ!)

痛みも疲労も忘れて、海成は全身全霊で諒真を投げ抜いた。

プロレスラーになる前、柔道をしていた頃から何度も何度も練習した技。だが実戦で、しかも諒真相手に成功させたのは初めてだった。

【海】(リョーマ……お前は強ぇ。だが、俺も負けねぇ!)

【実】「きたああああ! これは一本背負い! 見事に決まりました! しかも相手は自分より大きな築山選手ですよ!!」

実況の声が会場に響き渡る。

【解】「信じられない光景です! この体格差で、海成選手が投げを完成させた! これは……これは執念としか言いようがない!」

【観】「すげぇぇぇ!!」
【観】「海成、やっぱただ者じゃねえ!!」
【観】「諦めなかったな、あいつ!」

会場全体が揺れるような歓声に包まれた。

諒真の体がマットに叩きつけられる――その寸前。

【諒】(……まったく、海成。君って奴は……!)

無茶をやってのけるその姿に、呆れる気持ちと同時に、胸の奥底からこみ上げる敬意があった。

【諒】(やはり君は、僕が認めたライバルだ!!)

投げ飛ばされる、その一瞬すら――諒真は友としての海成の、リング上での輝きを、しっかりと心に刻んでいた。

ドンッ!

重い衝撃音が会場に響く。

諒真の背中が、マットに沈み込んだ。

【実】「決まったああああ! 海成選手の一本背負い、完璧に決まりましたああああ!!」

【観】「おおおおおお!!」

歓声が、さらに大きくなった。

第八十三幕:ROX発動

【諒】「ぐっ……!」

背負い投げを決められた諒真は、すんでのところで受け身を取った。

無傷の左側の背中に衝撃を逃がし、ダメージを軽くする。

【諒】(効いてはない……まだ大丈夫だ!)

諒真の心の中には、余裕があった。

確かに技は決まった。

だが、海成は小柄。

パワーでは押し切れない。

一本背負いだけで勝敗は決まらない――そう思って立ち上がろうとした瞬間。

【海】(今だ……! この一瞬を待ってた……!)

だが、それこそが海成の狙いだった。

今までの攻撃は、すべてこの一瞬のための布石。

立ち上がった諒真は、まだ完全に構えが整っていない。

【海】(ここだ! これで終わらせる!!)

海成の心の中には、迷いはなかった。

すべてを賭けて、この一撃に全力を込める。

海成は飛びつくように諒真の右腕をつかんだ。

そして、渾身のローリング・オポジットクロス――前転式の飛びつき腕ひしぎ逆十字を
仕掛けた!

【海】「これで極めさせてもらうぜ、リョーマ!!」

海成の声には、絶対に勝つという決意が込められていた。

【実】「きたぁぁぁ! 海成の切り札、ローリング・オポジットクロス!! これは危険だぁぁぁ!!」

【解】「右腕を完全にロックしています! これは危険ですよ! 諒真の右腕は以前に怪我をしている箇所です!」

【観】「うおおおっ!!」
【観】「決まったか!?」
【観】「リョーマーーっ!!」

決まれば肘関節に大きなダメージ。

海成にとっては最後の力を振り絞った必殺技だった。

【海】(これで……終わらせる……!)

海成の心の中には、勝利への執念があった。

だが――同時に、複雑な感情もあった。

【海】(リョーマ……ごめんな……でも、これが俺の答えだ……!)

ここで極められなければ、もう勝ち目はない。

全身の力を込めて、諒真の腕を極めにかかる。

【諒】(しまった! 完全に油断した……!)

諒真の心の中に、後悔が走る。

海成の狙いに、まんまとはまってしまった。

いや――自分が、甘かった。

【諒】(腕が、抜けない!! くそっ……海成、完璧に決められた……!)

諒真の右腕に、鋭い痛みが走る。

以前に怪我をした箇所だ。

あの日の痛みが、蘇ってくる。

【諒】(いや……今は、あの時とは違う……! 僕は、もっと強くなった……!)

【海】「逃がさねぇぜ、リョーマァァァ!!」

足で諒真の頭を押さえ込みながら、必死に極める海成。

その顔には、絶対に勝つという執念が刻まれていた。

【海】(頼む……決まってくれ……! これが俺の全部だ……!)

海成の心の中には、様々な想いが渦巻いていた。

諒真への敬意。

勝利への執念。

そして――諒真を壊してしまうかもしれないという、恐怖。

【海】(でも……引けねぇ……! これが、真剣勝負だ……!)

【観】「うおおおっ!!」
【観】「決まったか!? これはもう逃げられない!」
【観】「諒真! 頑張れぇぇぇ!!」

会場全体が、息を呑んで見守っていた。

誰もが、次の瞬間を待っていた。

第八十四幕:耐える諒真

【海】「とったぁぁぁぁぁぁ!!」

ついに海成が、諒真の腕を完全に伸ばすことに成功した。

腕ひしぎ逆十字――極まった瞬間、諒真の肘関節は可動域を越え、鋭い痛みが走る。

【諒】「ぐあぁぁぁっ!! あああああああっ!!」

マットに響き渡る叫び。

それは、演技ではない。

本物の痛みから発せられる、悲鳴だった。

【海】(決まった……! これで終わらせられる……!)

海成の心の中には、勝利への期待があった。

だが――同時に、強い不安もあった。

【海】(でも……本当にこのままでいいのか……?)

この体勢に入れば、海成の背筋力が諒真を上回り、自力で外すことはほぼ不可能。

だが、海成の拘束はまだ完璧ではなかった。

脚で頭部まで押さえ込めていない。

その隙を頼りに、諒真は必死にロープを探す。

【諒】(ロープ……どこだ……! 届け……!)

諒真の心の中には、痛みへの恐怖があった。

だが、それ以上に――ここで諦めたくないという想いがあった。

【実】「決まったぁ! 海成の腕ひしぎ逆十字!! これは危険だぁぁぁ!!」

【解】「これは危険ですよ。肘関節が完全に伸ばされている。普通ならすぐにギブアップしてもおかしくない局面です!」

【観】「逃げろリョーマーッ!」
【観】「ロープ! ロープまであと少しだ!!」
【観】「ギブしろ! 無理するな!!」

会場が騒然となる。

誰もが、次の瞬間を見守っていた。

伸ばした諒真の足先が、ロープまであと数センチに迫る。

だが、肘から脳天へ突き抜ける痛みが、全身を止めにかかる。

【諒】「くっ……ぐぅぅぅ……! あと……少しで……!」
【諒】(届け……! 届いてくれ……! 僕は……まだ終わりたくない……!)

諒真は必死に足を伸ばす。

痛みで視界が真っ白になる。

呼吸が乱れ、意識が遠のきそうになる。

だが――諦めるわけにはいかない。

【諒】(海成……君に認めてもらいたい……! 僕が、強くなったことを……!)

【海】「リョーマ、ギブしろ! 肘が外れるぞ!!」

海成の声には焦りが混じる。

【海】(頼む……ギブしてくれ……! お前を壊したくねぇんだ……!)

海成の心の中には、複雑な感情があった。

勝ちたい――だが、諒真を壊したくない。

その矛盾した感情が、激しくぶつかり合っていた。

諒真の右腕は一度、靭帯にまでダメージを負った部位。

あの日、諒真は試合を止められた。

リングサイドで、悔し涙を流した。

あの光景を、海成は忘れていない。

【海】(完全に回復してるって言っても……一度やった関節は……!)

一度脱臼した関節は再び外れやすい。

このまま粘れば、再度の大怪我は避けられない。

【解】「これは本当に危ない! 一度やった関節はクセになるんです。粘れば命取りですよ!」

だが海成にとっても、これは賭けだった。

【海】(リョーマの真面目さを知ってる……簡単に諦めねぇ……)

諒真の性格を知っている。

彼は簡単に諦めない。

何度倒されても、立ち上がってくる。

――だからこそ怖い。

無理をして、自分の未来を壊すかもしれない。

【海】(やめろ……頼むから、ギブしてくれ……!)

心では願う。

だが、勝機はこの技しかない。

ライバルとして、友として。

真剣勝負をすると決めた以上、力を緩めることはできない。

【海】(これが……俺の答えだ、リョーマ……!)

【諒】「まだ……負けられない!!」

その叫びに、海成の胸が締めつけられる。

【海】(リョーマ……お前、本当に強くなったな……!)

海成の目に、涙が浮かぶ。

それは、諒真の成長への喜びであり――同時に、自分が抜かれることへの寂しさでもあった。

【実】「リョーマ、耐える! 耐えているぞ!! これは凄まじい執念だぁぁぁ!!」

【観】「がんばれぇぇぇぇぇっ!!」
【観】「うおぉぉぉぉ!!!」
【観】「届けーーっ!!」

マットの上で、二人の執念がぶつかり合う。

痛みを押し殺しロープに向かう諒真と、必死に極め続ける海成。

友情と勝負心が交錯し、空気そのものが震えていた。

第八十五幕:ロープブレイク

【海】「はぁっ! はぁっ! はぁっ……くそっ!!」

海成の荒い息が、リング上に響く。

汗が滴り落ち、マットに染みを作る。

全身が悲鳴を上げている。

【実】「海成、あと一歩で勝負を決められるはずだった…だが、諒真が踏ん張った! ロープに届いたぁぁぁ!!」

【観】「りょーま! りょーま!」
【観】「うおーっ!! 海成ーっ!!」
【観】「すげぇぇぇ!!」

場内には緊迫した空気が漂う。

二人の選手は、リング中央で激しくぶつかり合っている。

諒真は右腕を痛めながらも、必死にロープに脚を伸ばしていた。

指先が、わずかにロープに触れる。

【諒】(届いた……! 僕は……まだ戦える……!)

諒真の心の中には、安堵と――同時に、さらなる決意があった。

ここで諦めるわけにはいかない。

海成に、自分の成長を証明しなければ。

【解】「諒真、ロープに届いた! ロープブレイク成立です! 海成、腕ひしぎを解かざるを得ません」

【海】(あの瞬間、極められたと思ったんだ……)

海成の心の中には、深い悔しさがあった。

必殺の腕ひしぎで終わらせるつもりだった。

あと少しだったのに――。

【海】(俺の必殺の腕ひしぎで終わらせるつもりだったのに……くそっ)

海成は歯を食いしばり、レフェリーに肩を叩かれて腕ひしぎを解く。

胸には深い悔しさが渦巻く。

【海】(リョーマの奴……本当に強くなりやがった……)

海成の心の中には、複雑な感情があった。

諒真の成長を嬉しく思う気持ちと――同時に、先輩として負けたくない気持ち。

その両方が、激しくぶつかり合っていた。

【諒】「まだ…終わらせない……!」

諒真は痛みに顔を歪めながらも、うずくまりながらリングにしがみつく。

右腕は明らかに限界を超えていた。

もう、まともに動かない。

【諒】(でも――まだ、諦めない……! 海成に、僕の成長を見せる……!)

諒真の心の中には、海成への感謝があった。

デビュー前から、何度も助けてくれた海成。

弱かった自分を、見守ってくれた海成。

だからこそ――今、全力で戦うことが、恩返しだった。

【海】(無茶するよな、リョーマ……だが、それでこそだぜ!)

海成は、諒真の姿を見て思う。

昔の諒真なら、ここで諦めていた。

だが今の諒真は違う――本当に強くなった。

【海】(お前は……もう俺の背中を追いかけてる奴じゃねぇ……)

【解】「諒真の容赦ない攻め。これが真剣勝負の姿だ…! 友情とプライドがぶつかり合っている!」

海成の目が鋭く光る。

諒真の痛みに耐えながら立ち向かう姿を見て、彼は自らの覚悟を決めた。

【海】(だったら俺も覚悟を決めるまでだぜ!!)

海成の心の中で、何かが燃え上がる。

それは、プロレスラーとしての誇りであり――同時に、諒真への答えでもあった。

【実】「海成、ここで再び立ち上がる! まさに闘志の塊だ!!」

【観】「海成! 海成!」
【観】「諒真、頑張れーっ!!」
【観】「どっちも負けるなぁぁぁ!!」

海成はわずかに残った力を振り絞り、再び諒真へ向かう。

息を切らしながらも、二人の視線が真っ直ぐに交わる。

【海】「諒真……最後まで、やろうぜ!」

海成の声には、敬意が込められていた。

これは、もう単なる勝負ではない。

ライバルの絆を確かめ合う、大切な戦いだ。

【海】(お前との戦いで、俺も答えを見つける……!)

【諒】「あぁ……僕も…負けない!」

諒真の声にも、強い決意が宿っていた。

痛みも、疲労も――もう関係ない。

ただ、海成と戦うことだけを考えていた。

【諒】(海成――この戦いで、僕は変われる……!)

リングに轟く二人の声。

場内が熱狂に包まれる。

痛みも疲労も忘れたように、二人は互いを睨みながら、最後の勝負へと突き進む。

【解】「友情、覚悟、そして闘志。これがプロレス――。二人の戦いは、まだ終わらない!」

第八十六幕:燃え尽きて

【観】「海成ーーー!! 立ち上がれーーーっ!!」
【観】「立てーー!!」
【観】「諦めるなーーー!!」

海成を応援する観客の声が、会場にこだまする。

その声は、まるで祈りのように響く。

【海】(あ……れ……?)

海成は必死に上体を起こそうとする。

だが、その体は言うことを聞かない。

腕に力が入らない。

足が動かない。

【海】(なんで……動かねぇんだよ……!)

マットの上に仰向けに倒れ込むしかなかった。

【諒】(……海成が、倒れた……?)

諒真は信じられない思いで、海成を見つめていた。

あれほど強かった海成が――倒れている。

自分が憧れていた海成が――動けなくなっている。

【諒】(僕は……勝ったのか? でも、これで……いいのか?)

【実】「なんとっ! 海成、力尽きたーーーっ! これは危険だ!!」

天井の眩しいライトが、海成の汗を照らす。

リング上には、緊張が張り詰める。

だが、スタミナも体力も完全に底を尽き、海成の体には立ち上がる力は残っていなかった。

【海】(やべ……もう…力、残ってねぇや……)

海成の脳裏に、これまでの試合が蘇る。

何度も、この状態に追い込まれた。

何度も、ここから逆転できなかった。

そのたびに、自分の弱さを思い知らされた。

【海】(俺は……いつもここで……終わる……)

海成の心の中には、絶望があった。

自分の限界を、嫌というほど理解していた。

【解】「海成の最大の弱点――打撃力不足が露わになった瞬間ですね。手数はあるが、決定打を欠く。諒真のタフさを超えるには、一撃の威力が必須でした」

【実】「これはドラマだ! 海成、最大の壁にぶち当たったぞーーー!!」

【観】「うわぁーー!!」
【観】「ここからどうする!?」
【観】「海成ーーっ!!」

倒れた海成は、呼吸を整える。

マットを見つめながら、自分の鼓動を感じる。

リングの歓声と、自分の心臓の音が、交錯する。

【海】(どうしたら……勝てるんだ……これ?)

海成の心の中には、焦りがあった。

いや――焦りだけではない。

諦めたくないという、強い想いがあった。

【海】(俺は……ここで終わりたくねぇ……!)

【諒】(海成……立つのか? まだ、立つのか?)

諒真は複雑な思いで海成を見つめていた。

勝ちたい――だが、このまま終わってほしくない。

海成には、もっと強くなってほしい。

その矛盾した感情が、諒真の心を激しく揺さぶる。

【諒】(僕は……海成に勝ちたかった。でも、こんな形じゃない)

【観】「そうだ、海成ーー!! 今こそ己と向き合う時だーーーっ!!」
【観】「おおーーー!」
【観】「海成! 立て!!」

観客席から怒涛のように声援が飛ぶ。

リング上に熱狂が生まれる。

海成の瞳が、鋭く光った。

そこには、最後まで諦めない覚悟が宿っていた。

【海】(打撃力……手数……それだけじゃ足りない)

海成は、自分の弱点を理解していた。

ずっと、それに苦しんできた。

何度も、壁にぶつかってきた。

【海】(でも――諦めるわけにはいかねぇ!)

海成の心の中で、何かが燃え上がる。

それは、プロレスラーとしての誇りであり――同時に、諒真への答えでもあった。

【海】(もっと……何かが必要だ……!)

【実】「これは見逃せない! 海成の反撃か!? 会場全体が息を呑む、この瞬間だーーーっ!!」

【観】「やれーーー!」
【観】「勝てーーー!!」

会場全体が、海成の次の動きを待っていた。

諒真も、息を呑んで海成を見つめている。

【諒】(海成――君は、まだ終わらない……そうだろ?)

二人の物語が、まだ終わらないことを――誰もが、感じていた。

第八十七幕:再び立ち上がる

【諒】「うぅぅ……!」

諒真の右腕が、だらりと垂れ下がる。

感覚はもう限界を超えていた。

痺れで握力も残っていない。

【諒】(……また、ドクターストップで止められるかもしれない)

諒真の脳裏に、過去の記憶が蘇る。

右腕を痛めて、デビュー試合が止められた日。

リングサイドで、悔し涙を流した日。

あの屈辱を、また味わうのか――。

【諒】(いや、違う。今回は違う! 僕は、もう昔の僕じゃない!)

それでも諒真の心は折れなかった。

いや――折れるわけにはいかなかった。

【諒】(海成……君がここまで本気なら、僕も最後まで戦う! 絶対に引かない!)

諒真の心の中には、海成への感謝があった。

ネクドリに入団した当初から、何度も助けてくれた海成。

弱かった自分を、見守ってくれた海成。

だからこそ――今、全力で戦うことが、海成への恩返しだった。

一方の海成も、もう立っているだけで精一杯だった。

息は荒く、汗で視界もかすむ。

全身が悲鳴を上げている。

【海】(くそっ……体が……重い……)

何よりも――諒真が立ち上がるたびに、自分の攻撃の無力さを突きつけられていた。

【海】(なんでだよ……! 俺の攻撃が全部決まってるはずなのに、倒せねぇ!)

海成の拳が震える。

それは疲労だけではなく――焦りと、恐怖でもあった。

【海】(リョーマの奴……何でまだ立てるんだよ!!)

海成は、自分のレスラーとしての攻撃力不足を痛感していた。

決定打がない。

諒真を完全に沈められる技がない。

【海】(俺は……リョーマより、弱いのか……?)

その考えが、海成の心を激しく揺さぶる。

頼りない弟を手助ける兄貴分として、海成は諒真を導いてきた。

それなのに――今、その弟分に抜かれようとしている。

【海】(いや、違う! 俺は諦めねぇ! ここで負けたら、すべてが終わる!)

二人はそれぞれに覚悟を決め、ふらつく体を叱りつけるように立ち上がった。

【海】「いい加減諦めろよ! 次で決めてやる!!」

海成の声には、必死さが滲んでいた。

それは強がりであり――同時に、自分自身への誓いでもあった。

【実】「おぉっと!! 両者、満身創痍ながら再び立ち上がったぁぁ!! これは限界を超えた死闘です!!」

【解】「両者とも、すでに体は壊れてもおかしくない状態です。普通ならここで止めるべきなんですが……意地ですね。プライドがぶつかり合っているんです」

【観】「いけぇぇぇっ!!」
【観】「立て! まだ終わってないぞ!!」
【観】「諒真ーーっ!!」
【観】「海成、負けるなぁぁぁ!!」

観客席から割れるような声援が飛ぶ。

会場全体が、二人の姿に心を打たれていた。

もはや勝ち負けではない――二人の魂のぶつかり合いを、見守っていた。

その声に後押しされるように、諒真はよろめきながらも構えを取った。

【諒】「海成……! 君を超えなきゃ、僕は前に進めないんだ!」

諒真の声には、強い決意が込められていた。

【諒】(僕はずっと、君の背中を追いかけてきた。君は僕の目標だった。憧れだった)
【諒】(でも――今日、ここで超える! それが、君への恩返しだから!)

【海】「ふざけんな! 俺だって、ここで負けたら今までの全部が無駄になるんだよ!!」

海成の叫びは、悲鳴に近かった。

【海】(俺はずっと、リョーマを見守ってきた。弱かったお前を、支えてきた)
【海】(それなのに――抜かれるわけにはいかねぇ! 兄貴分の意地を見せてやる!)

二人の叫びは、リング上でぶつかり合う雷鳴のようだった。

もう技の一発一発に「最後」の覚悟が宿っている。

【実】「ここからは一撃必殺の攻防!! どっちが先に仕掛ける!? リングの空気が張り詰めています!!」

【観】「うおおおおっ!!」
【観】「どっちも負けるなぁぁぁ!!」

会場全体が静まり返り、次の瞬間を待っていた。

立っているのが奇跡のような二人。

しかし――闘志だけはまだ燃え続けていた。

海成と諒真。

親友であり、ライバルである二人の物語が、今、クライマックスを迎えようとしていた。

第八十八幕:特攻

死力を振り絞り、海成はふらつきながらもロープへ駆け出した。

その顔には、焦りと決意が入り混じっている。

【海】「リョーーーマァァァァーーー!!!」

海成の叫びが、会場中に響き渡る。

海成の叫びは、自分自身を奮い立たせるためのものだった。

恐怖を振り払うための、咆哮だった。

【海】(もう後がねぇ! 今しかねぇんだ!!)

視線の先には、崩れ落ちそうになりながらも必死に立つ諒真がいる。

右腕は力が入らず、だらりと垂れ下がっている。

呼吸も荒い。

まるで全身の糸が切れかけているようだ。

【諒】(……体が、動かない……)

諒真の意識は、限界に近かった。

視界がぼやけ、足が震えている。

だが――まだ、倒れるわけにはいかない。

【解】「築山の右腕は完全にダメですね! もう攻撃には使えないでしょう!」

【実】「だが築山はまだ立っている! 倒れない! これが執念です!!」

【観】「リョーマ!」
【観】「カイセイいけぇぇ!!!」
【観】「諦めるなぁぁぁ!!」

会場は真っ二つに割れていた。

海成を応援する声と、諒真を応援する声が、激しくぶつかり合う。

だが、海成の胸に芽生えるのは勝利への期待だけではなかった。

ほんの少しの恐怖が、混ざっていたのだ。

【海】(リョーマはすげぇ……)

海成の脳裏に、試合の光景が蘇る。

何度攻撃しても、諒真は倒れなかった。

何度ダメージを与えても、立ち上がってきた。

【海】(あいつがもし持ち直したら……もう俺には勝ち目がねぇ!)

だからこそ――今、決めなければならない。

【海】(その前に、決める!!)

観客が総立ちになる。

ロープの反動を受けて、海成が諒真に突進する。

勢いをつけた必殺の飛び膝蹴りを顔面に見舞い、今度こそ諒真をマットに沈めるのだ。

【実】「来たぁぁぁぁ! 海成の飛び膝蹴りだぁぁ!!!」

【解】「この一撃で決まる可能性が高い!!」

【観】「うおおおおおっ!!」
【観】「決めろぉぉぉ!!」
【観】「避けろリョーマ!!」

会場全体が、息を呑む。

海成の体が、宙を舞う。

その膝が、諒真の顔面に向かって迫る。

諒真は朦朧としている。

視線は定まらず、立っているのが奇跡のようだ。

【諒】(……まだ……まだ終わらせるわけには……)

だが、その目の奥には、まだ消えていない光があった。

【諒】(海成、どこにいる……!)

諒真は必死に視界を確保しようとする。

ぼやけた視界の中に、海成の姿が見えた――ような気がした。

【海】(リョーマ――もう終わりだ!)

海成の膝が、諒真に迫る。

あと数センチ。

あと一瞬。

【諒】(海成――君は、強い……)

諒真の心の中に、様々な思いが駆け巡る。

海成への敬意。

自分への後悔。

そして――まだ終わりたくないという、強い想い。

【諒】(でも、僕も――まだ諦めない!)

海成と諒真。

二人の想いが、激しくぶつかり合う。

勝利の女神が微笑みかけるのは、果たしてどちらか――

第八十九幕:諒真の罠

諒真に止めを刺すべく、海成が突進してくる。

だが――それこそが、諒真の仕掛けた罠だった。

【海】(今だ! リョーマの動きが鈍ってる! このチャンスを逃すな!)

海成は全身の力を振り絞り、地面を蹴った。

狙うは飛び膝蹴り――これが決まれば、逆転できる。

【諒】(来る…この音は飛び膝蹴りだな)

諒真は海成の足音を聞いていた。

踏み切りの瞬間の音。

それが、すべての合図だった。

【諒】(足の踏み切りが合図だ。僕が狙っていたのはこれだよ、海成……!)

意識が朦朧としていたのは事実だ。

だが諒真は、海成の次の動きを読んでいた。

いや――読むというより、誘導していたのだ。

【実】「さあ! 海成が突進! だが、築山、何か構えているぞ! これはまさかの罠か!? 築山、ギリギリで反撃を狙うのか!」

【観】「海成ーーっ!!」
【観】「いけぇぇぇ!!」
【観】「待て! リョーマが動いたぞ!」

ギリギリの勝負。

諒真の意識が、一気に鮮明に戻る。

海成が飛び膝蹴りのために踏み切る、その瞬間を見逃さない。

【諒】「……ここだぁ!!」

諒真は距離を詰めた。

そして、無防備な海成の腹に強烈なフロントキックを叩き込む。

【諒】「ワンパターンすぎるよ、海成!」

【海】「ぐおぁぁっ!!」

【観】「うおおおっ!!」
【観】「決まったぁぁぁ!!」
【観】「カウンターだ!!」

海成の口から飛沫が飛び散る。

動きが止まり、体が宙で固まった。

【海】(う、嘘だろ……? まさ…か…リョーマの奴…これを……狙ってやがったのか!?)

海成の脳裏に、試合の流れが蘇る。

諒真が意識を失いかけていたように見えたのは――演技だったのか?

いや、違う。本当に意識が朦朧としていたはずだ。

だが、それでも海成の動きを読んでいた。

【諒】(海成――君は強い。でも、攻撃のパターンが読みやすい)

諒真の心は冷静だった。

焦りはなかった。

海成は攻撃のバリエーションが少ない。決定打につながるのは、飛び膝蹴りと特技のローリング・オポジットクロスのみ。

ゆえにこの状況で海成が何を仕掛けてくるか、想定することができたのだ。

【諒】(でも、僕は違う)

パワーレスラーである諒真は、全ての攻撃に必殺の威力がある。

どんな技でも、相手にダメージを与えられる。

そして――まだ温存している技もあった。

【実】「これは完全に諒真の読み勝ちだ!! 海成の飛び膝蹴りを読み切り、カウンターのフロントキックを叩き込んだ!!」

痛みに耐え、膝を震わせる海成。

その姿を見つめながら、諒真の目に、かつての自分と重なる光景が浮かぶ。

【諒】(僕は何度もマットに沈んできた……)

デビュー前の練習生時代、諒真は弱かった。

何度も負けた。

何度も屈辱を味わった。

【諒】(だけど立ち上がった。海成、君も同じだよね……)

だからこそ、諒真は海成の強さを知っている。

この程度で終わる男ではない。

【諒】(でも、勝負の読み合いは僕の勝ちだ!)

【実】「さあ! 諒真が目を光らせる! 必殺技を出すか!? 会場の空気が張り詰める!」

【観】「うおおお!!」
【観】「ここで終わるのか!!」
【観】「海成! 立て!!」

会場全体が、息を呑んでいる。

誰もが、次の瞬間を見逃すまいと、リングを凝視していた。

【海】(くそっ……まだだ……まだ……!)

海成は必死に立ち上がろうとする。

だが、体が言うことを聞かない。

視界がぼやけ、呼吸が乱れる。

【海】(リョーマ……お前、いつの間にそんなに強くなったんだよ……)

【諒】(受けてもらうよ、海成!……僕の全身全霊の一撃を!!)

諒真の目に、強い決意が宿っていた。

そこには、憎しみはない。

あるのは、敬意と――そして、自分自身を証明したいという強い想いだった。

【諒】(受けてもらうよ、海成!……僕の全身全霊の一撃を!!)

諒真の目に、強い決意が宿っていた。

第九十幕:突き刺さるカウンター

場内の空気が、一瞬で張り詰めた。

諒真の蹴りが決まった瞬間、会場は歓声と悲鳴が混ざった異様な熱気に包まれる。

【海】「がはっ! げほっ! うあぁ……!!」

海成は声を上げ、その場にうずくまった。

左腹部に激痛が走り、呼吸が荒くなる。

口から胃酸が逆流し、口の中が酸っぱい味に変わった。

【諒】(……入った)

諒真は無表情のまま、海成を見下ろしていた。

だが、その心の中には複雑な感情が渦巻いている。

【諒】(これで終わらせられる。でも――)

【実】「なんと! 今のは……完全にみぞおち直撃! 海成、左腹部に激痛! これは試合を大きく左右する一撃だ!」

【観】「うおおおっ!!」
【観】「ヤバいぞ!」
【観】「海成ーーっ!!」

観客席が騒然となる。

海成を応援する声と、諒真を称賛する声が交錯する。

【海】(ここ一番で…ヤバいのを食らっちまった……!!)

海成は痛みに耐えながら、己の甘さに歯ぎしりした。

諒真の強さに飲まれ、恐怖し、勝負に焦った結果がこのザマだ。

【海】(これは…マジでまずい……。終盤でこんな精度のキックを食らうなんて……)

痛みが全身に広がる。

視界がぼやけ、呼吸が苦しい。

【海】(俺もヤキがまわったもんだぜ!!)

諒真の蹴りは、空手の「三日月蹴り」に似た軌道だった。

普通は左足で肝臓を狙うものだが、今回は右足による一撃。

的中したのは脾臓付近――そこに強烈な衝撃が走った。

【諒】(海成――ごめん。でも、これが僕の全力だから)

諒真の心の中には、罪悪感があった。

だが、それ以上に、勝利への執念があった。

【解】「これは単なる打撃ではない。試合終盤でここまで精密な蹴りを放てるのは、相当な修練の結果です。内臓狙い、特に脾臓に命中している可能性が高いですね」

痛みがじわじわと増し、海成の呼吸はますます乱れる。

肋骨への影響も否めない。

膝を折り、必死に耐えようとするが、苦痛は消えない。

【海】(リョーマの野郎……マジで洒落にならねぇ強さを手に入れてやがる……!)

海成の脳裏に、諒真との出会いが蘇る。

あの頃、諒真はまだ弱かった。

だが今――目の前にいるのは、まったく別人のような強さを持つ男だ。

【実】「これはまさにカウンターの極致だ! 諒真、試合終盤で致命的な一撃! 海成、立ち上がれるのか!? 会場は総立ちだ!」

【観】「おおおーーっ!!」
【観】「海成! 負けるな!!」
【観】「諒真、強ぇぇぇ!」

リング上は息を呑む緊張状態。

海成は痛みに顔を歪めながらも、ゆっくりと拳を握り締める。

【諒】(海成――まだ立つのか?)

諒真の目に、驚きの色が浮かぶ。

あの一撃を受けて、まだ立ち上がろうとする海成の姿に、諒真は何かを感じていた。

【諒】(君は――本当に強いな)

海成の瞳には、炎のような覚悟が宿っていた。

【海】(だけど、まだだ! まだ、終わってねぇ……)

海成は歯を食いしばる。

痛みは消えない。

呼吸も乱れたままだ。

だが――諦めるわけにはいかない。

【海】(俺が諦めたら、リョーマの成長を認めちまうことになる)

海成の心の中には、複雑な感情があった。

諒真の成長を嬉しく思う気持ちと、兄貴分として負けたくない気持ち。

その両方が、激しくぶつかり合っていた。

【海】(俺は、こんなところで諦めたりしねぇぞリョーマ……!!)

その目には、絶対に負けないという強い意志が宿っていた。