2025年に私と立板三 様のコラボレーション連載企画として、私のキャラクターである「海成」と、立板三 様のキャラクターである「郡 新(こおり あらた)」選手の試合の模様を、AIイラストが私、小説と一部画像の加工が立板三 様の分担で合作する企画がありました。
この度、その絵や小説をこのBlogへの転載する許可を頂きましたのでお届けします!
とても長編作品になので少しずつお読み下さい。
※絵はAI生成です。小説はAI生成ではありません。
登場人物紹介
郡 新

郡 新(こおり あらた)
必殺技
リヴァイアサン・クラッチ(胴絞めスリーパーホールド)
隠し技:ドラゴンスリーパー
得意技
ジャンピングダブルニープレス
スモールパッケージホールド
三角絞め
逆エビ反り固め
WWEPのユニットチーム・ブルーリヴァイアサンに所属する若きレスラー。
身長178cm、体重78kgと平均的な体格ながら、研ぎ澄まされた戦術眼と驚異的な技術習得力で頭角を現す。
リング上では「カウンターマスター」の異名を持ち、相手の攻撃を利用して一瞬で関節技へと転換する巧みな戦いぶりで観客を唸らせる。
派手なパワープレイや無謀な突進を嫌い、常に冷静な判断と計算された攻防を心がけるその姿勢は、まるで氷のごとくクール。だが決して冷淡ではなく、試合後には誠実な一面を見せることもある。
2024年7月にデビューしたばかりの新人ながら、多彩な技と戦術への探究心で仲間からも一目置かれる存在。
今後、ブルーリヴァイアサンを支える柱となることが期待されている。
海成

海成(かいせい)
本名・佐久田海成(さくだ かいせい)。
「プロレスリング・アウトドアーズ」に2025年デビューした期待の新人レスラー。身長174cm、体重79kg。
リングネーム「海成」として活動し、ファンからはその豪快さと勢いを込めて「オレンジストームブレイカー」と呼ばれている。
明るく天真爛漫、そしてとびきり負けず嫌い。
攻撃を受けてもすぐに倍返しを狙う強気なファイトスタイルで、観客の視線を釘づけにする。
普段はあどけない笑顔を見せるが、時折覗かせる“ヤンチャ顔”がギャップとなり、デビュー直後から熱烈なファンを獲得している。
柔道経験を活かした体捌きと、甘いもの好きゆえのトレーニングで培った分厚い筋肉を武器に戦う。
必殺技は前転の勢いを活かした飛びつき式の腕ひしぎ逆十字――「ローリング・オポジットクロス(ROX)」。
一瞬の隙を突いて勝利をもぎ取るその姿は、嵐のような勢いを思わせる。
リングを降りれば、地元スーパーの鮮魚コーナーで働く社会人レスラー。
真面目に包丁を握る姿と、リング上で暴れる姿との落差もまた、彼の魅力のひとつだ。
横水 健太

横水 健太(よこみず けんた)
ニックネームは熱血シーサイドファイター。
身長168cm、体重73kg。1997年8月17日生まれ。
2021年にデビューした社会人レスラーで、「プロレスリング・アウトドアーズ」に所属。
普段はタイガープロレスのレフェリーとしても活動し、リングを内外から支える存在だ。
横水は、プロレス界に足を踏み入れたばかりの海成にとって、最初の師匠であり、兄のような存在。
時に厳しく、時に優しく、海成を一人前のレスラーへと導いてきた。練習場では容赦なく叩きのめしながらも、その裏では人一倍海成の未来を信じている。
海成にとっては「越えなければならない壁」であり、同時に「絶対に失いたくない背中」なのだ。
2025年の「ヤングドリームリーグ」を制覇し、若手限定のベルト「PODヤングウェーブ」を創設、初代王者となった。
だが彼にとって真の誇りは、タイトル以上に弟分・海成を育て上げること。
観客の前で戦うたびに、海成を支えた日々の記憶が胸をよぎる。
必殺技は華麗かつ破壊力抜群のシャイニング・ウィザード。
さらにスクリューハイキック、シューティングスタープレス、デスティーノ、片羽絞めといった多彩な技で、堂々とリングを駆け抜ける。
親善試合直前コメント
郡 新

WWEPとアウトドアーズ、注目の親善試合を目前に控え、両団体の代表選手が意気込みを語った。
本記事では、両選手の紹介とともに、その熱いコメントをお届けする。
冷静沈着な戦術家、郡 新。
そのスタイルは相手の攻撃を受け止め、即座に切り返す“カウンターマスター”。
彼の眼差しにあるのは、ただ勝利という結果だけ。
[郡新・コメント]
プロレスは感情だけでは勝てません。隙を突き、流れを奪い、確実に仕留める――それが勝負です。
海成くん? とりあえず元気は良さそうですが、それだけでは……。
彼に必要なのは勝利よりも先に、現実を知ることでしょう。
海成

WWEPとアウトドアーズ、注目の親善試合を目前に控え、両団体の代表選手が意気込みを語った。
本記事では、両選手の紹介とともに、その熱いコメントをお届けする。
対するは――感情の塊、“オレンジストームブレイカー”海成。
痛みを恐れず、心のままに飛び込む若き挑戦者。
その瞳には、勝ち負けを超えた“闘いの意味”が燃えている。
[海成・コメント]
うーん、どうなんだろう。大手の頭の良さそうな選手って感じがしますが、正直よくわかりません!
でも俺は――感情をぶつけて、心で闘う!
理屈じゃなく、魂でぶつかるプロレスがあるって、必ず証明します!
冷徹か、情熱か――。
勝負を制するのは、頭脳か、心か。
いま、正反対の二人がリングでぶつかり合う!
用語解説
プロレスリングネクサスドリーマーズ

「プロレスリングネクサスドリーマーズ」は若手レスラー主体のプロレス団体。
大手プロレス団体が育成とプロモーション強化を目的に若手レスラー専用の団体を設立。
リング上だけでなく動画配信やSNS展開など多角的な活動を行い、インターネット同時配信により、新規ファンの獲得に成功している。
団体名の「ネクサス」には“つながり”、「ドリーマーズ」には“夢を追う者たち”という意味が込められている。
プロレスリングアウトドアーズ

概要
「プロレスリングアウトドアーズ」は、日本を拠点とする社会人プロレス団体。
リングを屋外に設置し、自然の光と風を感じながら熱い試合を展開することを特徴としている。特に夏季にはビーチに特設リングを設置し、無料興行を開催するなど、観客との距離感を大切にした独自のスタイルを追求している。
特徴
アウトドアでの開催にこだわることで、従来の屋内興行とは異なる臨場感と開放感を提供。
観客参加型のイベントやSNS配信も積極的に行い、プロレスファンのみならず幅広い層の支持を集めている。
提携関係
プロレスリングネクサスドリーマーズと業務提携を結び、互いの団体で交流試合や合同興行を実施。
社会人団体ながら高い実力を持ち、ライバル団体としてネクサスドリーマーズのリングにも参戦し、注目を集めている。
WWEP

**ワタナベ・ワールド・エンターテインメント・プロダクション(WWEP)**は、2015年設立の日本最大級総合プロレス団体。東京・渋谷を拠点に、国内外で大会を企画・運営し、200名以上のレスラーと共に「闘いを最高のエンターテインメントに」を企業理念に掲げる。
代表大会「WWEP DREAM GATE」や「WORLD CLIMAX」などを開催し、地方巡業や海外公演も展開。
映像配信、選手育成、グッズ販売、ファンクラブ運営など幅広い事業を展開し、国内外の団体と提携。
多彩な王座制度を持ち、プロレスを格闘技以上の“感動の舞台”として発信し続ける。
対戦相手を語る
郡新視点で語られる海成

海成――不思議とあの選手の名を目にするだけで胸の奥がざわつく。
無鉄砲で、無策で、だが愚直なまでに前へ突き進む姿は、僕の考える理想の選手像とはまったく相いれない。
僕は彼を認めない。
技術も能力も低い、趣味でプロレスをやっているような社会人プロレスラー。
ショーパフォーマンスだけは上手で、観客を夢中にさせるその偽りの輝きを、僕はここで打ち砕かなければならない。
ああいう選手がいるから、いつまでたってもプロレスは遊戯や演技のように見られてしまう。
僕はそういった輩を破壊する者だ。
彼が立ち上がる度に叩き伏せ、立ち向かう度にねじ伏せ、最後には「夢は砕け散るもの」だと観客にも彼自身にも教えなければならない。
それが、僕に課された宿命だ。
海成視点で語られる郡新

郡新――なんかロボットみたいな奴だぜ。
何を考えているかわからない顔で、淡々と試合をこなしてやがる。
けどな、それが逆に燃えるんだ!
アイツを倒さなきゃ、俺はただのヤンチャ系新人レスラーで終わっちまう。
ただのパフォーマーで終わるなんてまっぴらだ。
リングの上で本物になるために、どうしても超えなきゃいけない壁なんだ。
何度倒されても立ち上がる。何度潰されても食らいつく。
郡新! あんたを倒して、俺は証明する。
“俺こそが未来のプロレス”だってな!!
横水視点の試合考察

あのカードが決まったと聞いたとき、胸がざわついた。
WWEPなんて大手からウチみたいな社会人プロレス団体への親善試合要請。
そんなものはただの名目で、将来のスター選手を華々しくこっちで演出してやればいいだけの接待試合であることは百も承知だ。
だが、どうにもあのバカが何かやりださないかと心配だ。
そこで、万が一の展開を考えて、この試合を考察してみる。
郡新――冷静沈着で、相手の攻撃を受け止めては切り返すカウンターマスター。あいつの前では、勢いだけじゃ絶対に通用しない。確実に心を折りに来るタイプだ。
そして、俺の弟分・海成。
正直、まだ荒削りだ。技術や経験では、郡の方がはるかに上だろう。けど、あいつには人を惹きつける熱と、何度倒されても立ち上がる強さがある。俺はそばで何度も見てきた。負けん気の塊みたいなその姿を。
だからこそ、この一戦は怖い。弟のように思う海成が冷徹な郡に打ち砕かれるんじゃないかってな。けど同時に楽しみでもある。ここで食らいついて、どこまで爪痕を残せるか――。
俺は信じてる。海成は簡単に折れない。むしろ、郡の冷たさをぶち破るには、あいつみたいな熱いレスラーが必要なんだ。
郡にとっても試練だろう。海成みたいな真っ直ぐな力は、戦術や計算では測れない。
この試合はただの一戦じゃない。二人の未来を決める大きな分岐点になる――ただの接待試合のはずなのに、俺にはそう思えてならなかった。
あらすじ

舞台は満員のアリーナ。
巨大プロレス団体WWEPの新鋭・郡新に挑むのは、社会人プロレス団体アウトドアーズのルーキー海成。
本来なら“接待試合”――だが海成のヤンチャなレスラー魂がそれを許さない。
挑発に応えるWWEPの郡新、会場を揺らすマイク合戦。
そしてゴングが鳴った瞬間、リングは真剣勝負の修羅場と化す。
プロレスという“格闘演劇”を超え、二人の若き力が激突する!
満員の観客に囲まれたリング。
その中央に立つ二人は、ただの親善を演じるにはあまりに不器用だった。
全力でしか語れぬ海成。
沈黙の中で答えを探す郡新。
一進一退の攻防の果てに、誰も予想しなかった物語が姿を現す――。
オープニング
接待試合

選手控室。
試合前のウォーミングアップに余念のない海成(かいせい)へ、本日の試合のセコンド役のつくアウトドアーズの先輩、横水健太(よこみず・けんた)が声をかけた。
【横】「海成。お前、今回の試合の意味、分かってるよな?」
【海】「もちろんすよ! とにかく全力で戦う!!」
【横】「……やっぱり取り違えてやがるな」
あきれ顔の横水に、海成は首をかしげる。
【海】「あれ、違うんですか?」
【横】「違うに決まってんだろ! 今回はゲスト団体の選手が相手だぞ。しかも友好親善のための試合なんだ。いきなり全力でぶつかるバカがどこにいる」
【海】「ここにいる!」
【横】「……海成お前、試合前にまず、俺に叩きのめしてほしいんだな?」
横水のひきつった笑みから漂う殺気に、海成は慌てて手を上げた。
【海】「さーせん!」
【横】「ほんとに分かってんのかよ……不安になってきたぞ」
【海】「練習試合なら、いつも通り戦えば問題ないんじゃないですか?」
【横】「バカ! お前の“いつも通り”ってのは、全力投球のことだろうが」
【海】「それがプロレスだし……」
【横】「アホ! プロレスは格闘演劇なんだよ。俺たちは役者! 観客を楽しませるのが仕事であって、本気で相手と試合したり潰したりするのが目的じゃねぇ」
【海】「そんくらいわかってますよ」
【横】「ほんとだろうな?」
横水の疑わしげな視線が、口笛を吹いて誤魔化す海成に突き刺さる。
海成の態度に不安を感じた横水は、さらに念を押した。
【横】「相手はWWEPの郡新だぞ。あのマンモス団体の選手相手に、俺たちが求められるのは“接待試合”。適当にやって、適当に負けて、相手を立ててはいおしまい。それがシナリオってやつだ」
【海】「……俺の考えるプロレスじゃないっす。それじゃ全力を出す意味が」
【横】「だから、お前の考えなんざどうでもいいって言ってんだよ!」
横水は深いため息をつき、くぎを刺すように言葉を重ねた。
【横】「いいか。まず礼儀正しく振舞え。笑顔で握手して、試合が始まったらそれなりのファイトで相手をして、向こうを活躍させろ。くれぐれもお前の方が目立つんじゃないぞ。んで、適当なところで切り上げて負けろ。わかったな?」
【海】「えー」
【土】「“えー”じゃない! ちゃんとやれ。セコンド席から俺が見張ってるからな」
【海】「……はいはい、わかりましたよ」
【横】「ほんとだろうな?」
自分の確認を苦笑いでごまかす海成を見て、横水は半ば確信めいた考えを抱いていた。
危険な兆候だ。
こういう時、こいつは何かやらかす。
海成はプロレスラーとしての素質は十分、真剣に試合に向き合う姿勢も評価できる。
だが、如何せん負けん気が強すぎて、勝負となるとすぐに熱くなる悪いクセがある。
その気質が悪い方にでないと良いのだが……。
しかしだからといって、かわいい後輩にして教え子である海成を見捨てるわけにもいかない。
横水は内心、覚悟を決めるしかなかった。
今日も後ろから目を光らせ、行き過ぎれば自分が出て止めるしかない、と。
第一章 選手入場
郡その壱

試合会場はすでに熱気で包まれていた。
ワタナベ・ワールド・エンターテインメント・プロダクション(以下 WWEP)と、プロレスリング・ネクサスドリーマーズ(以下 ネクドリ)、そしてプロレスリング・アウトドアーズの三団体が初めて顔を合わせる親善試合。
舞台はネクドリのホームリング。WWEPの積極的なプロモーションが功を奏し、会場は超満員、チケットも即日完売という盛況ぶりだった。
もっとも“親善試合”といっても、その実態は練習試合に近い。公式の成績には一切関わらないため、正規軍レスラーたちは「腕試しの場」と意欲的に臨んだが、反則行為の禁止、ラフファイト非推奨といったルールが設けられたため、ヒールたちの反応はどこか冷ややかだった。
第一試合のカードは――海成 VS 郡新(こおり・あらた)。
試合開始の時間が訪れた。
会場に実況の声が響き渡る。
【実】「プロレスリング・アウトドアーズから参戦する新人、オレンジストームブレイカー海成。可愛らしい顔立ちと裏腹に、どんな逆境にも立ち上がるヤンチャなファイトスタイルで人気急上昇中の存在だ」
【実】「対するは、WWEPチーム・ブルーリヴァイアサンの郡 新。まだ無名ながら、冷静沈着な戦いぶりと端正なルックス、引き締まった体躯で、特に女性ファンの支持を集めつつある注目株!」
異なる団体、異なるスタイルを背負った二人の若きレスラーが激突するこの一戦は、早くも観客の大きな期待を集めていた。
郡その2

アリーナが暗転する。
青いライトが渦を描くように動き、スモークの中からひと筋の光が花道を照らす。
リングアナウンスの声が会場に響き渡る。
【実】「さぁ、登場ですッ!
ブルーリヴァイアサンの若き戦術家――
“カウンターマスター”!
アーラタァァァーー・コオオオオリィィィーー!!!」
──観客席からどよめきと歓声が響き渡る。
郡 新が落ち着いた面持ちで瞑目し、姿を現す。しばしの時をおいて眼を開くと、無駄のないフォームで歩を進め、観客に煽るような派手な動きはしない。その冷静な眼差しは、すでにリングに向けられている。
郡その参

【実】「来ました! 冷静沈着なカウンターマスター・郡 新! 新人ながらも驚異的な技の習得スピード、そして“相手の攻撃を逆手に取る”戦術眼で注目を集めています!」
【解】「ええ、彼の真骨頂は“受けてから返す”スタイルですね。必殺のカウンターリバーサルは一瞬の隙を突く連続関節技! 相手からすれば、攻めるほどに自分の手足が削られていく恐怖があるでしょう」
実況と解説の会話がなされる中、郡はリングサイドで一度立ち止まり、軽く手首を回し、冷静に深呼吸。
やがてロープをくぐり、中央に立つと静かに片腕を掲げる。観客の拍手が青いライトに反射し、アリーナを染め上げていく。
【実】「パワーではなく、戦術とカウンターで勝負! ブルーリヴァイアサンの未来を担う男、郡 新の入場ですッ」
海成その壱

続いてアリーナに軽快で明るいポップロックが流れ出す!
場内スクリーンにオレンジ色の稲妻が走り、テーマ曲「Be positive!」が観客の手拍子を誘う!
【実】「2025年デビュー!
プロレスリングアウトドアーズの新星ッ!
“オレンジストームブレイカー”――
カァァァーーイセェェェーーイ!!!」
会場に響き渡るアナウンスと共に、オレンジ色のライトに包まれて、花道の奥から颯爽と現れる海成。
ニコッと笑顔を見せながら観客の手をタッチし、元気と活力みなぎる姿勢で堂々と歩みを進めながら、かわいい顔立ちに笑みを浮かべながら観客席に手を振る。
海成その2

【実】「出ました! プロレスリングアウトドアーズ期待のルーキー・海成! あの愛嬌のある笑顔と裏腹に、試合ではとにかくヤンチャ! どんなにやられても絶対に立ち上がり、やりかえしていく鋼の精神力の持ち主です!」
【解】「そうですね。柔道仕込みの腰の強さ、さらに鍛え上げられた筋肉量……。見た目以上にタフな選手ですよ。そして必殺のROX――ローリング・オポジットクロスは、一瞬で勝負を決められる破壊力があります!」
──海成はリングサイドに到着すると、助走をつけてロープを飛び越え、軽やかにリングイン!
中央で両腕を大きく広げ、観客に向かって「やろうぜ!」と叫ぶと、オレンジのライトがストロボのように瞬き、会場のボルテージが一気に上がる。
【実】「爽やかルーキーにして嵐を呼ぶオレンジストーム! 今日も元気いっぱい、海成がリングを駆け抜けますッ!」
第二章 マイクパフォーマンス
海成挑発

【海】「よう。お前、WWEPのルーキーなんだってな」
リングの上で郡に対峙した海成は、マイクを片手に不敵な笑みを浮かべる。
【海】「話は聞いてる。俺はあんたを接待する役だそうだな」
【郡】「……」
【海】「適当にやって適当に負ける。そんな感じでいくぜ! えっと……それで、いいんだよな?」
目に鋭い光を宿して、海成は郡を睨みつける。
だが、どうにもセリフがしまらない。
横水に指摘されたことを、必死に思い出しているためだ。
海成のゆるい言動に、会場から忍び笑いが漏れる。
とはいえリング上の二人の間には、とてもではないが友好的な雰囲気など流れていない。
二人の間に立ちこめるのは、敵対的であり剣呑な空気だ。
【郡】「……」
【海】「無視かよ。……まぁいいや。お前たちがご希望の、ええと、適当な試合ってやつに付き合ってやるぜ!」
言葉とは裏腹に嘲笑を浮かべ、わざとらしいふるまいで郡に握手の手を差し出す海成。
横水衝撃

【横】「あのバカ……やっぱりやりやがった!」
セコンド席から様子を窺がっていた横水は、頭を抱えていた。
まさか自分の言った注意事項まで、マイクパフォーマンスでバラしてしまうとは、なんて奴なんだ。
二人のやり取りに、会場は盛り上がっている。
試合開始前からバチバチな雰囲気の二人に、会場の客は大盛り上がりだ。
海成のゆるい言動も、ヤンチャ系ということでそれはそれで悪くない。
しかし、接待役であるアウトドアーズの選手が、客であるはずのWWEPの選手を挑発するような態度をとって目立つなど論外な流れだ。あくまで目立たせるべきはWWEPの選手であり、アウトドアーズの選手は脇役であるべきなのだ。それなのに、この流れでは海成が主役になってしまっている。
もしこのまま試合が進めば、後でWWEP側からアウトドアーズにどんなクレームがもたらされるかしれたものではない。そしてそのお叱りの言葉は当然、海成の指導役である横水にもたらされるのだ。
【横】「あの馬鹿……試合が終わったら絶対にシメる!」
郡挑発

一方、リング上では沈黙を保っていた郡に動きがあった。
海成の伸ばした手を掴み握手をするため手を伸ばすが、握る直前になって、郡はその手をひょいと海成の手の下に入れた。
握手をするつもりはない、つまりなれ合い不要の意思表示だ。
【海】「む……握手拒否かよ。上等だ! 接待無しでやろうぜという意思表示だと受け取っていいんだな?」
【郡】「……きみのケンカは、口でするものなんですか?」
ここにきて、郡がようやくマイクを口に近づけて話し出した。
見た目同様、涼やかで知性を感じさせる低い声だ。
【海】「なんだと?」
【郡】「随分と楽なケンカをお望みなんですね。アウトドアーズきってのヤンチャ選手が、実はただの口先野郎だったなんて、肩透かしもいいところです」
冷笑を浮かべて海成を挑発する郡。
どうやら彼もまた、ケンカの作法を弁えている選手のようだ。
海成の顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
【海】「へぇ……WWEPなんてデカい団体の選手さまでも、俺のケンカを買ってくれるってのかよ。上等だ。お前が口先だけの奴だったら、がったりするところだったぜ」
【郡】「奇遇ですね。僕も口先だけの奴は好きじゃないんですよ。まぁ、自分の見た目は人並み程度ではあると、自負してますけどね」
郡も負けてはいない。
獣のような笑いを返してくる郡に、海成は満足げに頷いた。
【海】「おっ……少しは人の心を持っているようだな。あんまり表情が変わらないから、Aなんとか……言葉がでてこねぇな、まぁロボットでいいや。それかとおもって心配してたぜ。そうだよな? 俺たちに言葉はいらねえ、体を使ったバトルで勝負しようぜ!」」
【郡】「バトルは戦うという意味だから、バトルしようぜ、だけでいいような……まぁ、いいでしょう。ただ、啖呵を切った以上、僕にこの後ボコボコにされたからって、泣いたりしないでくださいよ」
【海】「いってろよ」
互いの拳を軽くぶつけ合い、構える海成と郡。
そして運命のゴングが試合会場に鳴り響いた。
第三章 郡新という選手
観察する郡

試合開始から5分が経過していた。
海成の繰り出す攻撃を受け止めながら、郡は内心で軽く落胆していた。
確かに海成のキックは力強く、リズムもある。エルボーの威力も十分で、逆回し蹴りや踵落とし、掌底アッパーと、多彩な攻撃を持っている。
だが、どれも直線的で荒々しいだけ。フェイントも連携もなく、単発で振り回す力任せの技にすぎなかった。
【郡】(所詮はインディーズ、いや社会人プロレス団体の選手か……)
郡は心の中で侮蔑の笑みを浮かべながら、自身所属するWWEPユニット「チームブルーリヴァイアサン」で叩き込まれる高度な技術を思い出す。
それに比べて海成の技のそれは、なんと粗雑なことか。
【郡】(退屈な試合だな)
観客席からは「いけぇ、海成!」「もっと畳み掛けろ!」と声援が飛ぶが、郡は巧みにいなし続ける。
実況が熱を帯びる。
【実】「海成、得意の打撃で攻め立てています! しかし郡は一歩も退かない! これは凄まじい防御力だ!」
解説のベテランレスラーが唸る。
【解】「いや、これは防御じゃなく“観察”ですね。郡はまだほとんどダメージを受けていない。全部、次の布石ですよ」
表向きは海成が攻めているように見える。だが郡は涼しい顔で攻撃を受け流し、コーナーに追い込まれることもなく、まるでリングを自在に泳ぐかのように動く。
燥する海成

【海】「……くそったれ!」
苛立ちを募らせた海成が叫ぶ。
ひたすら攻撃を回避し防御に回っている郡が、自分の動きを観察し続けていることなどとっくに気づいている。
しかし、五分も守勢に回っておきながら、未だに反撃の一つも繰り出してこないとはどういうことなのか。
【海】「おい! いい加減、なんか撃ち返してこいよ! いくらなんでもこの程度の攻撃にびびったわけじゃねぇんだろ!?」
【群】「……」
郡の返答は無言のガードのみである。
【海】「ガードばっか固めやがって! そっちがその気なら、その守り、こじ開けてやる!」
ここで郡の腹部にわずかな隙間が生まれる。海成の目が光った。
【実】「来た! 海成、狙っているのは――膝蹴りだ!」
実況が叫ぶ。
だが――。
察知する横水

【横】「まさか、あの野郎………」
郡のもくろみに気づいたセコンド席の横水が立ち上がる。
あのガードは、偶然緩んだものではない。
意図的に“緩め”られたものだ。
その狙いは……。
【横】「やめろ海成! 罠だッ!!」
しかし、時すでに遅し。
海成は右膝を振り上げ、一直線に郡の腹部へ――。
郡、強襲する

【郡】「待ってましたよ」
郡の口元に、笑みがうっすらと浮かぶ。
次の瞬間、カメラが一気にズームイン。郡が横に回り込み、飛び込んできた右膝を両手で捕らえる!
【観】「なっ――!?」
観客がどよめく。
郡は海成の右脚にフックをかけ、さらに左脚も絡め取り、中腰の姿勢でマットに倒れ込む!
【実】「これは……足4の字固め!? いや、変則だ! ヒザと足首、両方を同時に極めています!」
解説が声を荒げる。
郡の体重が一気にのしかかり、海成の右足首と右膝関節に凄まじい圧力がかかる!
【海】「いてぇぇぇぇぇ!!」
海成が絶叫した瞬間、観客席は悲鳴と大歓声が入り混じる。
【観】「おおおおおっ!」
【観】「やべぇ、極まったぞ!」
実況も叫ぶ。
【実】「海成、ピンチだ! これは危険すぎる角度だ! レフェリーもチェックに入った!」
マットに響く悲鳴。会場全体が息を呑み、ただその攻防を見守るしかなかった。
第四章 海成苦戦
もがく海成

蹴り出された脚を抱え込まれ、海成は苦悶の声を漏らす。海成は脱出しようと必死にもがくが、郡はすぐさま海成の腕を取り――。
【実】「おっと! これはストレートアームバーに移行した!」実況が叫ぶ。
自分も得意とする腕十字とほぼ同じ技を仕掛けられたことに驚いた海成だが、ここは落ち着いて対処する。
【海】「させるかよ!」
【解】「海成、冷静だ! 肘が伸び切る前に体を捻り、体重をずらして逃れた!」
解説が唸る。
場内からは「おおっ!」と拍手混じりの歓声が起こる。観客の誰もが、極められかけた海成の意地に息を呑んでいた。
しかし安堵する暇もなく、郡はすぐに海成に対して次の関節技をかけに動く。
【実】「今度は通常の足四の字固めだ! 出ました、クラシカルだが恐ろしい関節技!」
実況が続く。
郡は体勢を細かく調整し、海成の左脚で蹴り逃げる隙を封じている。
【解】「膝と足首、二重で圧がかかってますね。これをまともに極められれば、立ち上がれなくなる」
解説が冷静に補足する。
【海】(こいつ……やばい! このまま極められたら、マジで終わっちまう!)
海成の心臓が警鐘を打ち鳴らす。
【海】「いい加減しつけぇんだよ、このロボット野郎!」
必死に上半身を起こした海成は、渾身の拳を郡の顔面へ――。
攻め立てる郡

【郡】「セオリー通りですね」
しかし、郡はその手をがっちり掴み、瞬時に態勢を変える!
【実】「うおっと! 今度は腕ひしぎ逆十字固めに切り替えた! 速い! 技の切り替えが速すぎる!」
実況が声を張り上げる。
両脚で海成の腕を挟み込み、親指を天井に向けるように固定。次の瞬間、肘を反らせて極めにかかった。
【海】「ふ、ふざけんな! 腕ひしぎ逆十字だとぉ!?」
観客からも悲鳴に近い声が飛ぶ。
【解】「腕ひしぎ十字固め! これもまた大技です! 柔道やMMAで使われる技で、長く捕まれば靭帯損傷は避けられない!」
解説が真剣な声を出す。
海成は必死に両手の指を組み、肘が伸ばされないように耐え忍ぶ。
観客席からは「頑張れ!」「耐えろ海成!」と必死の声援が飛ぶ。
郡の関節地獄

そんな海成の防御する姿を見て、郡は事も無げに言い放つ。
【郡】「やっぱり得意技からはすぐに逃げだせますか……。では、苦手なほうに戻しましょう」
そう告げると腕ひしぎをあっさり解除し、再び海成の右脚へ狙いを定める。
【実】「な、なんだ!? また海成の脚を……!」
実況が声を荒げる。
郡は自分の肘の内側に海成のかかとをフックさせ、両手で固定。そのまま一気に体重を乗せてひねり上げた。
【海】「ヒール・ホールドだと!?」
場内が大きなどよめきに包まれる。
【実】「出ました、膝と足首を同時に破壊する恐怖の関節技! プロレスシューズは滑りにくいため、これが極まると威力は倍増です!」
解説が説明を補足する。
悶絶する海成

【海】「ガァッ……アガガガガガガガ!!」
足首を極められた海成が悲鳴を上げ、マットの上でもがき苦しむ。観客もまた、声を失うほどの緊迫感に包まれていた。
セコンド席でその光景を見守る横水が呻く。
【横】「クソッ……あいつ、関節技を自在に切り替えてきやがる!」
試合開始から10分。
場内はざわめきと歓声、悲鳴が入り混じり、観客たちは郡の恐るべき“関節技地獄”に釘付けとなっていた。
第五章 接戦
反撃の海成

【海】(……調子乗りやがって、このさかな野郎!)
海成にとって、痛みも忍耐もすでに限界に到達していた。
確かにプロレスは「なんでもアリ」の自由さが売りだ。だが、だからといってこのやり方はあまりにも執拗すぎる。
郡の容赦ない関節技地獄にハメられた海成は逆上し、ついに反撃に打って出る。
プロレスラーの中では小柄な体型の海成だが、線が細いわけではない。むしろ日々の鍛錬でつけた密度の濃い筋肉が、全身を覆ってたくましい体つきだ。
その筋肉をバネに変え、腰から下を大きくひねると――しつこく自分の右脚にまとわりついていた郡をその体ごと豪快に跳ね飛ばした。
困惑する郡

【郡】「なっ!?」
予想外な行動にでた海成のせいで、吹っ飛ばされてマットの上に叩きつけられた郡は困惑し、ほんの一瞬、思考を止められる。
【郡】(こいつ……なんて動きをするんだ! まるでオレンジグリフォンの連中みたいじゃないか!)
WWEPのユニット〈チームオレンジグリフォン〉――アクロバティックな攻撃を武器とする彼らのような戦法を、今まさに海成が再現してみせたのだ。
【郡】(こんな曲芸まがいの真似事に、この僕が……!?)
その迷いの時間は、たった一秒程度。わずかな空白だ。だが、反撃のチャンスを狙う海成にとってそれは、十分すぎる時間だった。
起死回生のシャイニング・ウィザード

【海】「くらえっ!!!」
素早く立ち上がり態勢を整えた海成は、動きを止めた郡の膝めがけて右脚を鋭く蹴り込む。
痛みは自身の膝と足首にも走ったが、かまってはいられない。
郡の腿を足場にさらに跳び上がると、空中で体をひねり――左脚から繰り出した蹴りを郡の顔面へ突き刺す。
必殺のシャイニング・ウィザード!
【郡】「しまっ……!!」
郡の反応は一瞬遅れた。ガードが間に合わず、スパン、と乾いた快音を響かせて、海成の膝蹴りが郡の顔面にクリーンヒットする
衝撃の郡

観客席が爆発した。
【観】「うおおおおおっ!」
【観】「決まったぁぁぁーっ!!」
悲鳴とも歓声ともつかぬ大音量がアリーナ全体を揺らす。
【実】「うわぁ、これは海成! 右脚で郡の膝を弾き飛ばした――そのまま跳び上がって左膝を顔面に叩き込んだ!! シャイニング・ウィザードがクリーンヒット!!」
実況と解説も興奮気味に、この海成の動きを伝える。
【解】「見ましたか、実況席! 郡選手、完全に油断していましたね。海成選手の体幹の強さと瞬発力があってこそ、このアクロバティックな逆転が成立しています」
【実】「郡、マットに仰け反って倒れ込んだ! 顔面を押さえながら呻いています! これはかなり効いてますよ!」
【解】「郡選手は普段、非常に冷静で計算高い選手です。それが一瞬でもガードが間に合わないというのは、海成の動きの速さとタイミングが抜群だった証拠です。」
郡はその場で大きく仰け反ると、マットに崩れ落ちた。顔を押さえて転がりながら呻く姿は、普段の冷静さなど欠片もない。
喝采上げる海成

その隙に海成は胸を大きく上下させながら立ち上がり、右拳を突き上げて吠えた。
【海】「ヨッシャァァァァァ!!」
リングの四方から、観客の歓声が重なり合い、嵐のように降り注ぐ。
会場の空気は一変し、完全に海成のものとなっていた。
【実】「会場の熱気も最高潮! リング上の海成、右拳を突き上げて叫んでいます! 観客も総立ちだ!」
【解】「これがプロレスの醍醐味ですね。技が決まった瞬間の観客のリアクションが、選手に勢いを与えます。海成選手、ここで完全に流れをつかみました。」
【実】「さぁ、郡はすぐに立ち上がれるか!? このまま海成が攻め続ければ――まさに試合の流れが変わる瞬間です!」
試合開始15分経過。
戦いの流れに変化が生じてきた。
第六章 郡陥落
前編

【郡】(この僕が……こんな、こんなインディーズ団体の選手ごときに!!)
シャイニング・ウィザードをまともに浴び、マットに倒れ込んだ郡。額に走る痛みよりも、無防備のまま派手な蹴撃を食らった事実が、彼のプライドを大きく傷つけていた。その顔は羞恥と怒りで真っ赤に染まる。
まさか練習試合同然の場で、しかも心の中で「格下」と見下していたインディーズ選手・海成を相手に、大手プロレス団体WWEPの正規選手である自分が、万座の前で醜態をさらすことになるなど――完全に想定外だった。
こんな無様な姿をさらしていては、誇り高いブルーリヴァイアサンの先輩選手たちに対して、とても顔向けできない。
【郡】(許さない……海成、必ず潰してやる!)
汚点を注ぐべく、群が怒りに燃えて立ち上がろうとした瞬間、海成の動きが先んじた。
前屈みになっていた郡の両腕を掴み、自分の背中越しに交差させるように絞り上げる。
【郡】「なっ!?」
【海】「へぇ、お前にも驚く顔があるんじゃん。いつもロボットみたいに無表情で、スカしてるだけかと思ってたよ」
リバース・フルネルソン――両腕を背後で拘束されるため、相手のバランスが大きく制御される危険な体勢だ。
カメラが郡の苦悶の表情へとぐっと寄る。会場の観客席に設置された大型ビジョンにも映し出され、ファンのざわめきが一層大きくなる。
【海】「まだ続きがあるんだぜ!」
【郡】「なっ!? ま、まさか!」
腕を抑え込まれて焦る郡を見て、海成は不敵に笑うと同時に、両腕を極めたまま勢いよく後方へ倒れ込む!
それに引きずられる形で、郡の頭部がマットへ突き刺さるように叩きつけられた。
――ドォンッ!
ダブルアームDDT炸裂!
後編

【郡】(ぼ、僕ともあろうものが、こんな、こんな大げさで見た目重視なだけの技を、みすみすリングの上でかけられるだなんて……!!)
頭を襲う痛みと恥辱のあまり、涙すら出そうになる郡だったが、かろうじて耐えてみせる。
そこまで無様をさらしてなるものか。
郡も意地になっていた。
【実】「おおっと! リバースフルネルソンから一気に移行、これはダブルアームDDTだ!」
【解】「腕を極められた状態で落とされるため、受け身がほとんど取れません! 首と頭に大ダメージですよ!」
実況の興奮した声に合わせて、カメラがリング中央に倒れ込んだ郡を真上から映し出す。仰向けのまま動けず、頭を押さえて呻く姿がスクリーンに大写しになると、会場からは割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
【実】「郡が完全にのされた! 海成、これは大きなチャンスを掴みました!」
【解】「ええ、ここから畳みかければ、格上相手に大金星も見えてきますよ!」
観客は総立ち。
試合開始から20分が経過し、海成の鮮やかな逆転劇に、会場のボルテージは最高潮へと達していた。
第七章 激闘
睨み合う二人

ダウンしたダウンした郡に覆いかぶさり、海成がフォールを狙う。
カウントが入る――。
【レ】「ワン! ツー――!」
マットを叩く音が2つまで数えられ、遂に3カウントめが数えられる直前、郡が体をねじり上げた!
【郡】「……な、める、なぁぁぁ!」
実況席がざわつく。
ほぼ2.9カウント、郡がここにきて海成のフォールを返す。
【実】「返した! 郡、まだ死んでない! 驚異的な粘りです!」
観客からも「おおおっ!」と歓声が広がる。
3カウントがとれなかった海成は、マットの上で仰向けに倒れている郡の髪を苛立ちまじりに掴み上げると、無理やりその体を引き起こした。
【海】「なんだよ、根性あるじゃねぇか……。だいぶプロレスの試合っぽくなってきたじゃん」
【郡】「……よくもやってくれましたね、海成くん!」
【海】「余裕かましてるから、こういうことになるんだよ!」
睨み合う二人。郡の瞳は獰猛に光り、海成は不敵な笑みで挑発する。
しかし、ここで異変が起きた。
先に立ち上がったはずの海成が、突如、自分の右膝を抱えてその場にうずくまったのだ。
膝の限界

【海】「いっつぅ……!」
ここまで郡に執拗に攻められた右関節が、ついに悲鳴を上げたのだ。
【実】「これは痛い! 序盤から集中的に狙われてきた右膝、ここで限界か!」
解説が声を荒げる。
その隙に態勢を立て直した郡が、うずくまる海成を前に仁王立ちになる。
郡の大技

膝を抱えてうずくまる海成を見下ろす郡の目には、憤怒の炎が宿っていた。
【郡】「そんなにプロレスラーらしい技で倒されたいというのなら……いいでしょう。見舞ってあげますよ!」
郡がその場で大きく跳躍!
両足で海成の頭部を挟み込むと――宙を回転!
【実】「フランケンシュタイナーだ!!」
実況が叫ぶ。
【解】「まさか関節技の使い手が、こんな大技まで……!」
解説も驚愕だ。
観客席が爆発的などよめきに包まれる。
【観】「うおぉぉぉっ!!」
【観】「郡が飛んだぞ!」
ドゥン!!!
海成の頭部がマットに突き刺さり、会場全体が震えるような衝撃音が響いた。
【解】「これは効いた! 首にモロに来てますよ!」
解説の声も緊迫する。
不屈の海成

だが郡は止まらない。倒れ込んだ海成の背中に回り込むと、背後からすかさず腕を回し込み――。
【実】「今度は三角絞めだ! 関節技だけじゃなくて絞め技まで……! まるで寝技の百科事典だ!」
実況が熱を帯びる。
【郡】(これで終わりだ――。落ちろ、海成!!)
締め上げられ、海成の顔がみるみる紅潮していく。意識が遠のく――。
その時だった。
【観】「カイセイ! カイセイ!」
【観】「行けぇぇぇっ!!」
会場のあちこちから、海成コールが自然発生的に広がる。観客の声がひとつに重なり、アリーナ全体が揺れる。
【郡】「くそっ……この僕が、まるで悪役みたいな扱いに! 不愉快な奴め、早く落ちろ!!」
どうしてこの海成という男相手の試合は、こうも自分の思う通りに運ばないのか。
郡は内心の苛立ちを隠しきれず、焦りから海成への締め付けをさらに強める。
だが、観客の声援に背中を押された海成は、全身の力を振り絞った。
【海】「う、うおおおおおお!!」
怪力を発揮し、郡の体を引きずるようにして這いずる。
まだだ、まだ俺は動ける。
会場が割れんばかりの歓声に体を押される海成。
一歩、また一歩と、重たい体をロープへ――。
【実】「信じられない! こんな体勢からロープに向かうなんて!」
【解】「これが観客の声援の力……プロレスの醍醐味ですよ!」
実況が絶叫し、解説の声を張る。
そして遂に、海成の指がロープを掴んだ!
【実】「ロープエスケープ!!」
観客が総立ちになり、大歓声が爆発した。
【観】「うおぉぉぉぉ!!!」
【郡】「そ、そんな馬鹿な!」
郡の心にあったプライドが、今、完全に崩れ落ちた。
海成という選手の、このタフネスさとヴァイタリティは一体どこからくるものなのか。
試合をただの競技としかみられない郡には、理解不能な事だった。
【海】「……ざまぁ…みやがれってんだ」
痛めつけられた右膝と足首の痛み、そして頸動脈を圧迫され続けた苦しさで顔を歪ませながらも、自分を見ながら化け物かと驚愕している郡に対し、海成は笑顔で返して見せる。
試合開始から25分が経過。
激闘はなおも続く――。
第八章 決着
恐れる郡

【郡】「な、なんて奴……だ! はぁっ、はぁっ、はぁっ」
あまりの海成のタフネスさに驚愕した郡は、自分が荒い息をついていることにようやく気づいた。攻め疲れでスタミナ切れをおこしていたのだ。
【郡】(こんな奴相手に、息切れまでおこして……僕は一体何をやってるんだ!)
ふがいない己を叱咤し、三角締めを解いて海成から距離を取ることで、何とか息を整えながら構えなおす郡。会場は一瞬の静寂に包まれる。
【実】「郡、三角を解いた! これは珍しい判断! だが、息が……荒い!」
【解】「相当スタミナを使ってしまいましたね。締めきれなかったツケがここにきて響いている」
乾坤一擲 海成

だが、その一瞬を突くように、今度は海成が立ち上がる。
【海】(膝が…馬鹿みたいに痛てぇ……! でも、やるしかねぇ!!)
覚悟をきめた海成は助走をつけて――跳躍!
【実】「飛んだぁーーっ! 飛び膝だぁぁ!!」
【解】「右膝を酷使してます! これは無謀にすぎますよ!」
【郡】「無茶な! 君のほうがもちませんよ!」
あまりに無謀な海成の行動に、郡が驚愕と苛立ちを混ぜた声を上げる。
【海】「うるせぇ! 無茶でもなんでも、俺にはもうこれしか残ってねぇんだよ!」
必死の形相で怒鳴り返す海成。
――海成の体力は既に限界。右膝も悲鳴をあげている。まともに打撃戦を挑めば、体力に余裕を残している郡相手に勝ち目はない。だがら海成が勝負を賭けられる技は、この飛び膝蹴りだけだった。
【海】(ここまできたら……やるっきゃねぇだろ!)
【実】「飛び膝、二発目ぇぇぇ!」
【解】「膝を壊す覚悟ですよ! 体を削ってでも勝機を作りにいってる!」
連続して郡の体に打ち込まれる膝蹴り。会場の観客が立ち上がり、興奮の渦に包まれる。
ガードに入る郡だが、必死の気迫と体重を乗せた海成の膝蹴りを完全に防ぎきることはできない。
その強く激しい衝撃に押され、郡は後退を余儀なくされる。
【郡】(こんな無茶な動き、プロレスだからって有り得ない……! こんなことを続けていたら、いずれ確実に自分の膝が壊れるぐらい、サルでもわかる事だろうが! 本当の馬鹿なのか、こいつ……!!)
激励する横水

【海】「おおおおおおおっ!!!」
【横】「あのバカ……らしいやり方だぜ、まったく……」
海成の快進撃に、セコンド席の横水が、苦笑しながらも目を細める。
【横】「止めるかどうか迷ったが……まだあいつの目は死んでない。やれるところまで、やらせるしかないな」
痛みに耐え、必死に飛び膝を撃ち込み続ける海成。その姿は、もはやプロレスラーの意地そのものを体現したものだった。
ここまで来たら、あいつの好きなようにやらせるのが一番だ。
レスラー魂を見せろ、海成。
後輩の試合を見守る横水の、握る拳に力が入る。
不退転の決意

【郡】「ぐぅ!!」
凄まじい気迫と威力に押され、海成の連続飛び膝蹴りを浴びせられ続けた郡は、遂にコーナーポストまで追いこまれる。観客席からは思わず息を呑む声が漏れる。
【実】「郡、完全にコーナーに追い詰められた! ここから反撃は可能か!?」
【解】「これは危険な状況です……海成の気迫がそのまま攻撃力になってますね!」
しかし、ここに至って郡も覚悟を決めていた。生半可な攻撃ではこの海成という強敵を仕留めることはできない。この男に勝つためには、飛び膝蹴りの直撃を食らう事を恐れず、自分が持つ最強の一撃を捨て身のカウンターで放つしかないだろう。
【郡】(いいだろう……そこまで壊されたいというなら、望みどおりにしてやる。その痛めた膝を、今度こそ確実に完全に、完膚なきまでにぶっ潰してやるぞ! ……勝負だ、海成!! この試合に勝つのは僕だと言う事を、思い知らせてやる!!!)
プロのレスラーになってから今まで、試合の中で郡がこれほど興奮したことはない。
積み重ねてきた練習とMMAを中心とする格闘技メソッドを武器に、冷静かつ着実な試合運びで、対戦相手を圧倒してきたのだ。
努力や根性など、感情論で試合を行う選手など愚か者たちなのだと吐き捨て、心の底では見下してきた。
その郡が今、海成と同じ根性で熱意をもって、試合に臨んでいる。
これは郡本人すら、無自覚で行っている行為だった。
真っ向勝負でカウンターを狙おうと、海成が最後の飛び膝蹴りを仕掛けてくるのを郡は待つ。しかし、その一撃は放たれなかった。コーナーにもたれかかる郡の直前で、海成はまたしてもうずくまっていた。体力も痛みも限界に達したのだ。
【海】(チクショー! なんで動かねぇんだ、俺の体……! 動け、動いてくれよ!!)
あと一撃。
あと一撃入れられれば、郡のダウンを狙えるかもしれないのだ。
しかし、どんなに喝を入れようとも、限界に到達してしまった海成の体は、ピクリとも動かなくなっていた。
郡の前で両膝と両腕をマットの上について、海成の動きは完全に止まってしまう。
【実】「あぁ……海成、ここで限界か!? 脚が完全に止まった!」
【解】「連続攻撃のツケがここに……郡は呼吸を整えられますね」
降伏勧告

郡は再び自分の前でうずくまる海成の右膝にローキックを放ち、その脚を払う。
【海】「ぐぁ!!」
バランスを崩してマットの上に倒れる海成を見下ろしながら、郡は呼吸を整えつつ声をかける。
【郡】「……海成くん。一応、聞きます。ここでギブアップするつもりはありませんか?」
【海】「……ねぇよ」
苦しそうに息をつき、額に汗を滲ませる海成の、しかし瞳にはまだ闘志の光が宿っている。
やはり、か。
海成から想定していた通りの答えが返ってきて、郡は心の中で頷いた。
これ以上の降伏勧告は、ここまでの彼の熱いファイトに対して、侮辱にしかならない。
結果が見えた試合だからといって、そこで諦めてはプロの選手ではない。
一人のプロレスラーとして、そしてファイターとしての矜持を見せる海成に対し、最高の一撃をもって止めをさすのが、この試合の対戦相手である自分の役目であると、郡もまた理解していた。
海成の答え

【郡】「……分かりました。君と戦ってみて悟りましたよ。君という選手を倒すには、それ相応の技をかける必要があると。覚悟はいいですね?」
【海】「……やれるもんなら、やってみろよ」
全身に走る激痛を押し殺し、海成はニヤリと笑った。フォールに持ち込まれるその瞬間まで、決して抵抗をやめない――そんな意思表示だ。
勝敗が決したからといって、そこで心を折るようでは男が、いやプロレスラーが廃る。
だが笑みはすぐに苦痛へと変わる。立ち上がる気力も体力も、もはや尽き果てていた。右膝には針を突き立てられるような痛みが走り、動くだけで悲鳴をあげているはずだ。
それでも、海成の目の奥から戦意は消えていなかった。
ヒーローとヴィラン

【郡】(やせ我慢もここまで来ると一級品だな……。僕も見習うべきかもしれない)
会場は完全に海成の味方となっていた。
ここまで絶望的な戦いを戦い抜いてきた海成の姿に、観客たちは惜しみないエールを送り続ける。
――あんな選手になりたい。そう思わせるだけのスター選手の資質が、この男には確かにあるのだ。
郡は心の奥で感心しながらも、冷静に状況を整理していた。
【郡】(ここで挑発に乗ってもいい。だが、すべて彼の思惑どおりに試合を運ばれるのは癪だな……。なら、少し驚かせてやろう)
海成の誘いに乗る気は毛頭なかった。
この試合における二人の役割は、すでに決まっている。
海成は――ヒーロー。悪と戦い、苦難を乗り越え、観客に勇気と情熱を与える存在だ。
ならば郡の役割は――悪役(ヴィラン)。ヒーローを苦しめ、追い詰め、観客に絶望を味わせる存在。
ヒールになるつもりはない。だがヴィランならば、悪くない。
やってやろう――僕なりの“ヴィラン”を。
その瞬間、郡の口元に妖しい笑みが浮かんだ。鋭い視線を海成に向けたかと思うと、するりとロープを駆け上がり、トップロープに立つ。
【海】「なっ……!?」
虚を突かれた海成の目が大きく見開かれる。驚愕と警戒の色を浮かべ、必死に視線を追った。
見下ろす郡の顔には、冷たい嘲笑も取り澄ました仮面もなかった。
そこにあったのは、仲間に仕掛けた悪戯が見事に決まったときの、少年のような得意げな笑み――。
胸が高鳴る。
なんだ、ヴィランも案外楽しいじゃないか。
【実】「郡がトップに! これは意外だ! 一体何を仕掛けるつもりだ!?」
【解】「間違いなく飛行技を狙っている! だが、郡は派手な空中殺法をほとんど見せたことがない……! これは一体……何を狙う!?」
会場がどよめきに包まれる。
郡の体が大きくしなり、次の瞬間、リングへと――
郡の答え

【郡】「これが僕の答えです。受けてもらいますよ、海成くん!」
コーナーから跳躍し、膝を突き出して海成に襲い掛かる。
フライング・ニー・ドロップ。
狙いは海成の右脚。
そして郡の両膝は、狙い違わず海成の右後脚に矢じりのごとく突き刺さった。
【海】「うぎゃああああああああああ!!!」
これまでの損傷にくわえ、この一撃により海成の右脚は甚大なダメージを被った。
もはや自力で立ち上がることは不可能だろう。
会場が一瞬、悲鳴と驚愕の声に包まれる。海成は脚を抱えてうずくまる。観客の「おおおおっ!」という声が、緊張感をさらに高めた。
【海】(こ、ここまでするのかよ、こいつ……!!)

ついに海成を打ち倒した郡は、誇らしげにリングの上で腕を突き上げるのだった。
フィニッシャー

しかし郡に攻撃の手を緩めるつもりはない。
右脚を襲う激痛にのたうちまわりながらも、なんとか攻撃からガードしようとする海成の腕を無理やり引きはがし、郡は海成の壊れた右脚を力づくでもぎとる。それを両手で抱えて脇の下に抱え込み、海成の体をまたぐようにのしかかる。そして郡は自分の背中を反らせた――逆片エビ固めだ。
【海】「ン……ン! グググググググ!!」
耐える海成の顔が、真っ赤に染まる。
足首、膝、背中、腰を極める古典的なフィニッシャー。観客は息を呑み、リングサイドからも「おおーっ!」と声が飛ぶ。
技を極めながらも、郡は海成のほうに顔を向けて、声をかける。
【郡】「海成くん! さすがに限界のはずです。ギブしてください! このまま無理に耐え続けると、しばらく歩けなくなりますよ!!」
【横】「海成、そいつの言う通りだ。もういい、十分だ、ギブアップしろ!」
横水もセコンド席から叫ぶ。海成の顔色から、体力の限界が伝わってくる。
タップ

その瞬間、海成の腰から足にかけて、ビギリといういやな音と共に、電撃のような衝撃が走った。
【海】(も、もう……限界だ!!)
郡の言う通り、これ以上の抵抗はしばらく歩けなくなる恐れがあることを本能的に理解した海成は、ついに観念してタップした。
レフェリーが海成と郡の間に入って、二人を引き離す。
【実】「タップ! タップですよ!! 試合終了です!!」
【解】「30分超の激闘に決着……海成、限界まで戦いました!」
試合開始30分過ぎ。ついにリング上に勝者の旗が立つ。観客席は歓声と拍手に包まれ、両者の激闘を讃えていた。
エンディング
試合終了

【海】「はぁはぁはぁ……いてぇな、チクショー」
試合終了直後、逆片エビ固めから解放された海成は、荒い息をつきながら破壊された右膝を庇って、何とか体を起こそうとした。しかし痛みが激しく、立ち上がることもままならない。観客席からは海成の痛みを想像して、痛そうに「うわぁ……!」と心配の声が漏れ、リング上には緊張と心配の空気が漂った。
するとそこに、海成の体を助け起こす者が現れる。
【郡】「無茶はしないでください」
郡だった。冷静な対応で海成の体を支え、ゆっくりと楽な姿勢を取らせる。
郡は周囲を見回し、セコンドの横水に声をかける。
【郡】「すいません、水と冷やすものをお願いします」
【横】「これだ、使ってくれ」
横水がリングに上がり、タオルにくるまれたアイスノンと水のペットボトルを差し出す。
【郡】「ありがとうございます」
それを受け取りながら、郡は海成に声をかける。
【郡】「大丈夫ですか?」
【海】「あぁ、まぁ、なんとか……。WWEPの選手ってのは皆、お前みたいに強いのか?」
【郡】「僕なんてブルーリヴァイアサンの中では、特に大した見所のない新人選手ですよ。僕よりはるかに強い選手が、WWEPにはごろごろしてます」
【海】「そりゃすげぇ……」
郡に差し出された手を掴み、海成はなんとか体を起こす。口に水を含み、一息つくと、郡は海成の右脚にアイスノンをあてて患部を冷やす。
【海】「チクショー。お前、マジでつえぇな。負けたわー」
【郡】「僕のほうこそ、びっくりしましたよ。こんなに抵抗されると思っていなかったので……。正直、君のことを僕はかなりみくびっていました」
観客席からは、試合後のリング上のやりとりに温かい拍手や歓声が湧き上がる。「いい試合だった!」と声を上げるファンもいる。
怒る横水

そんな二人の間を、横水が割って入る。
【横】「おいお前、郡といったか。プロレス技じゃなくて、マジの関節技でこいつの脚を最初から破壊しようとしてたよな? ただの親善試合で、どうしてそんな潰し紛いなことしたんだ?」
顔を険しくして横水が尋ねる。可愛い後輩に対する行き過ぎた攻撃に、彼の中では許せないという感情が湧き上がっていたのだ。
それにプロレスラーの視点からしても、試合での郡の姿勢は到底許せるものではなかった。
横水のもっともな指摘に、郡は素直に頭を下げた。
【郡】「申し訳ありません。言い訳にもなりませんが、僕はその、実は苛ついていまして……」
【横】「この親善試合に、か?」
【郡】「……はい。本当は今日、WWEPで昇格試験があったのですが、会社都合でキャンセルされ、親善試合に出るよう命令されたんです。それで、その……」
【横】「こいつに挑発されて、その鬱憤をはらしたってわけか……」
【郡】「恥ずかしながら……」
試合が終わり頭が冷えた郡は、試合中の自分がおかした行為の過激さと愚かさを痛感していた。穴があれば入りたい心境だ。
【横】「さすがにそれは、お前の勝手な都合だよなぁ……」
【郡】「おっしゃる通りです。お詫びのしようもありません」
【海】「まぁまぁ。そんなことどうでもいいっすよ、健太さん」
水を飲み終え、ボトルの蓋を締めながら、海成が口を挟んだ。
許す海成

【横】「どうでもいいって……海成、お前、こんだけやられて脚も壊されたってのに頭にきてないのか?」
【海】「確かにあのやり口はえげつないけど、試合前に俺もこいつのこと煽ったわけで、あんまり強く責められないっすよ」
【横】「そうだよ! お前、俺の言う事まったく聞かないで、こいつのこと勝手に煽りやがって! 試合が終わったら、シメてやるって決めてたんだ! てめぇ、後で覚悟しやがれ!!」
【海】「やべ! やぶへびやっちまった!」
ぎゃあぎゃあ言い合う横水と海成の態度に、郡はきょとんとした顔をする。観客席からは「おいおい、あの二人、またやってるぞ!」と笑い声が漏れ、リング上も緊張が解けて少し和やかな空気に包まれる。
【郡】「あの……ほんとに君はそれでいいんですか?」
【海】「あぁ、試合で怪我するのはレスラーとして当たり前のことだし……。怪我をしたのも俺が弱かったせいだしな」
【横】「それはまったくもってその通りだ。怪我が治ったら関節技のかけ方と脱出について、俺がみっちりしごいてやる」
【海】「うっす! 横水さん」
観客席では、試合後のやり取りに拍手と笑いが混ざる。「いいぞ、こういうプロレスラーらしいやり取り!」と声援も飛ぶ。
この話はそれでおしまいと打ち切る海成に、郡がなおも続けようとする。
【郡】「それでは僕の気が収まりません。何かお詫びさせてください」
【海】「お前、関節技かけてくるのと同じくらいしつこいよなぁ……。じゃあ、俺の怪我が治ったら快気祝いに何かおごってくれよ。そうだな……あの高級ホテルのスイーツバイキングがいいな! 前からいきたかったんだけど、高くて中々手がでなかったんだよな」
【郡】「……そんなことでいいんですか?」
【海】「いいんだよ。それより、そろそろリングからどかないと……いてて」
リングと会場は、次の試合に使われることが決まっている。観客席からは「次の試合も楽しみだな!」と次のカードへの期待が漏れる。選手は試合後、用事が無ければすぐにリングから立ち去るのが基本だ。
【郡】「さっきも言いましたけど、無茶はしないでください。君の脚関節まわりの靭帯は相当に傷ついているはずです。断裂はしてないと思うけど、痛みが酷いようなら病院にいってくださいね」
【海】「これぐらい平気だって……」
【郡】「そんなわけないでしょう。今だって自力で歩けないくらいなんですから。さ、僕の肩につかまってください」
郡のほうが海成より少し背丈は高かったが、体型はかなり近い。肩を貸すのにちょうどよいと氷が進み出た。
その言葉に甘え、海成は郡の肩を借りて立ち上がろうとする。
支える郡

【海】「んじゃ、お言葉に甘えて……よっと」
【郡】「ん……海成くん、君、見かけより意外とウェイトあるんですね」
海成の腕を肩に回した郡は、肩越しから伝わってくる予想外の重量感に少し驚いた。
【海】「あぁ、鍛えてるからな。郡、お前のほうこそレスラーにしちゃ細すぎるんじゃねぇの? ちゃんと食ってるのか」
【郡】「僕はスポーツインストラクターのアルバイトをしていて、職業柄あんまり太り過ぎるわけにいかないんですよ。それに自分のファイトスタイルからいって、パワー主体のレスラーではないですから、そんなに重量は必要でもないんです」
【海】「ふーん……そんなもんか」
郡の肩を借りて、海成がゆっくりと立ち上がる。二人の選手が笑顔で観客席に手を振りながら会場を後にすると、観客から惜しみない拍手と歓声が湧き上がるのだった。
照れる郡

【海】「あ、ところでさ」
控室に向かう最中、海成が郡に声をかけた。
【郡】「なんですか?」
【海】「あんた、俺のこと名前で呼んでんじゃん?」
【郡】「あ、そういえばそうでしたね。選手名がそう書かれてあったので、ついそう呼んでしまいました。確かに初対面の人をファーストネームで呼ぶのは失礼ですね。すいませんでした。ええと確か君の苗字は……佐久田、くんでしたか。では、今度からそう呼ばせてもらいますね」
郡が非礼を詫びて呼び方を改めようとすると、海成は手をパタパタと振ってそれを否定する。
【海】「あぁ、違う違う。そうじゃなくて」
【郡】「?」
【海】「折角俺のこと名前で呼んでくれたから、俺もあんたの事、名前で呼びたいってこと。これからアラタって呼んでいい?」
【郡】「アラタ、ですか。う~ん……」
海成からストレートに名前を呼ばれた郡は、少し微妙な顔つきになる。
完全に体育会系思考の持ち主である郡は、後輩が先輩に対してフレンドリーに接しすぎることに抵抗があったのだ。
その様子を見た海成は、横水から受けた教えを思い出すことで、郡の微妙な反応の理由が何であるか理解することができた。
【海】「あ、そういえば健太さんから先輩は敬えって、いつも言われてたんだ。あんた、俺より年上だったもんな。いきなり呼びつけはまずいや。わりぃわりぃ。じゃ、アラタさんでいい?」
【郡】「え? あ、あぁ、それなら全然かまいませんよ」
海成が人懐っこそうな顔をして郡の名前をさんづけで呼ぶと、郡はやや面食らい、頬を少し赤くした。
今まで対戦相手であったはずの海成が、急にかわいい後輩のように思えて照れ臭くなってしまったのだ。
横水もそうであるように、海成は先輩に気に入られる要素を持っている選手のようだ。
茶化す海成

【海】「あ、今、顔が赤くなったな、アラタさん」
その変化を見逃さなかった海成が、ニヤニヤしながら指摘する。
【郡】「し、してませんよ。急に何を言いだすんですか、海成くん」
【海】「いやしてたね、絶対してた!」
【郡】「……海成くん。先輩をからかうとどうなるか、教えてあげましょうか」
郡がにっこりと笑うと、肩に背負っていた海成の腕をぽいっと手放す。
当然、支えを失った海成の体はバランスを崩し、痛めた右膝を屈めてしまう。
【海】「ぐげ!!」
【郡】「次はないと思った方がいいですよ、海成くん。たまに誤解されますが、僕はそんなに気が長いほうではないですからね」
すばやく海成の腕を抱えて、それ以上のダメージが及ばないようにしながら、郡は満面の笑みを海成に向ける。
言い争う二人

【海】「あんた、いい性格してやがるよなぁ……」
【郡】「君もいい勝負でしょ」
【海】「いやいやいや、俺は、あんたみたいに陰険な性格なんてしてませんから」
【郡】「ほう、よくいいますね。君、煽りが上手じゃないですか。試合前に僕に向けて言い放った啖呵も中々でしたが、他の選手との試合でもかなり言いたい放題の煽り文句を口にしていたように記憶していますが?」
【海】「ちがうって! あれは試合だから、プロレスラーとしてふさわしい言動をしてるだけだっつうの!」
【郡】「どうだか。あれこそが、君の地じゃないんですか?」
【海】「俺はアラタさんみたいに意地悪な人間じゃねぇよ!」
【郡】「海成くん、君、随分と無自覚なようですけど、けっこうえげつない、いい性格してますからね? 試合の時の技のかけ方なんて、本当に性格悪いなぁ、こいつと思いましたよ」
【海】「ありえねぇ! アラタさんのほうがよっぽどひでぇ技のかけ方してきただろうが! 俺の脚こんなにしたの、あんたじゃん!」
【郡】「それは君が生意気でむかつく選手だったからですよ。試合をなめているとどうなるか、自らの拳で教えてあげようとしただけのことです」
【海】「でたパワハラ発言! いやだねぇ、パワハラに無自覚な世代って」
【郡】「よくいいますよ、君こそ無礼発言満載のハラスメント野郎じゃないですか。少しは目上をリスペクトしたらどうなんですか」
【海】「うわぁ、きたよ。自分がリスペクトされるべき人間だと思ってる奴の言葉。痛い人ってアラタさんみたいな人の事言うんじゃない?」
【郡】「……海成くん、これからリングに戻ってもう一回試合やりなおしません? 僕、今度こそ君のその脚、両方とも破壊したくなってきましたよ」
【海】「無理無理! 俺、もう限界。やりたいならアラタさん一人でやってきて。俺は控室で休みたい」
【郡】「君ねぇ」
【海】「なんだよ」
たまにはこんな日が

控室に続く通路を歩きながら、口角泡を飛ばして口喧嘩していた二人は、しばらく顔を見合わせると、やがてどちらともなく笑い出す。
【郡】「まったく口が減らない……。さて、控室が見えてきましたね。とりあえず安静にしてください。横水さんはそこらへん心得ている方のようですから、あとはお任せしましょう」
横水は二人より先に控室に戻り、怪我をした海成のケアをするため準備を整えている手はずになっていた。
【海】「うん、健太さんはそこらへん上手だから、心配いらないぜ」
【郡】「それはよかった。……海成くん、今日の試合は本当に」
【海】「ストップ! そこまでにしようぜ、アラタさん。話が本当に終わらなくなっちまう」
【郡】「……分かりました。それでは、スイーツバイキング期待していてください。それなりのホテルを見繕っておきますよ」
【海】「いいね! 俺スイーツ大好きなんだ! 期待してるぜっ!!」
【郡】「まったく現金ですねぇ、君は」
スイーツという言葉に顔を輝かせる海成を見て、郡はやれやれと苦笑して一人ごとを小声で呟く。
【郡】「ま、たまにはこんな日があってもいいんでしょうね。対戦相手と試合後に談笑だなんて……以前の僕では、まったく考えられない事でしたよ」
【海】「ん? なんかいった、アラタさん?」
【郡】「いえ、何も。さ、控室に入りますよ。段差気を付けてくださいね」
【海】「おう。アラタさん、ここまでサンキュな」
【郡】「どういたしまして」
試合を終えた二人の選手は、仲良く肩を抱き合いながら控室へと入っていった。歓声に包まれた会場とは打って変わり、静かな安堵の空気が控室に漂っていた。