アウトドアーズの海成と、ネクサスドリーマーズの築山 諒真のシングルマッチ。
私が1つの試合の生成絵を少しずつ長期間に渡って公開する企画がありまして、
その後に立板三 様から絵に合わせた小説をご提供いただいた作品になります。
一部、フィクションな内容も含まれており、ファイプロの興行やストーリーと異なる点もございます。
※絵はAI生成です。小説はAI生成ではありません。
第百一幕:掲げられる手
会場全体が割れんばかりの拍手に包まれている。
観客たちは立ち上がり、二人の選手に惜しみない賞賛を送っていた。
【諒】「ほら海成、手を振って」
諒真が海成の腕を支えながら、そっと声をかけた。
海成はなんとか立ち上がったが、体が重い。
足が震えている。ダメージは想像以上だった。
観客たちの笑顔が目に入る。
温かい拍手が耳に届く。
【海】(わかってる……わかってるんだよ……)
海成の心が叫んだ。
【海】(今すぐ笑顔で手を振らなきゃいけねぇ。この声援に応えなきゃいけねぇんだ。でも……!)
顔が引きつる。
笑えない。手も上がらない。
【海】(クソッ……! 俺ってなんて小さいヤツなんだ……!)
海成は唇を噛みしめた。
【海】(リョーマが勝って、会場のみんなが喜んでくれた最高の試合だったんだぞ! それなのに……それなのにどうして俺は笑顔になれねぇんだよ!)
全力を尽くして戦った。
それでも勝てなかった悔しさ。
隣で笑顔を作る諒真への羨望。
こんな自分への不甲斐なさ。
様々な感情が渦巻いて、整理できない。
一方、諒真は海成の表情を見て、小さく息をついた。
【諒】(やれやれ……)
心の中で苦笑する。
【諒】(普段はあんなに偉そうに兄貴分を気取るくせに、肝心なところで子供っぽくなるんだよね、海成って)
でもそれが海成らしいとも思う。
不器用で、素直になれなくて、でも誰よりも熱い男。
【諒】(それもまた、らしいといえばらしいんだけど……)
ただ、このままではマズい。
自分ばかりが注目されて、海成が悪目立ちしてしまう。
観客の視線が気になった。
何人かが海成の様子を訝しげに見ている。
【諒】(海成は悪くない。ただ感情を処理しきれてないだけだ)
諒真は決めた。
【諒】「海成、一緒に行こう」
諒真は海成の手をしっかりと握った。
そして半ば強引に、その腕を高く掲げる。

観客の拍手が一段と大きくなった。
【海】「おま……! 何勝手なことしやが——」
海成が驚いて振り返る。
でもその目に、諒真の優しい笑顔が映った。
責める色は微塵もない。ただ、心配そうに見つめている。
海成の胸が熱くなった。
【海】「……いや、すまねぇリョーマ。マジで助かるわ……」
声が少し震えた。
【諒】「いいよ。海成の気持ち、少しわかるから」
諒真は静かに答えた。
【諒】「僕だって、逆の立場だったら同じだったかもしれないし」
その言葉に、海成は救われた気がした。
気恥ずかしさと悔しさで顔をゆがませながらも、海成は精一杯、観客に向かって手を振った。
諒真も隣で手を振る。
二人の姿を見て、観客の拍手はさらに大きくなった。
それは、勝者だけでなく、全力で戦った両者への賞賛だった。
【海】(ありがとうな、リョーマ……)
海成は心の中でつぶやいた。
【海】(お前がいてくれて、本当に良かった)
諒真もまた、心の中で思っていた。
【諒】(海成、お前は強いよ。だから次は、もっと強くなれる)
第百二幕:再戦要求
【海】「あ~だめだ!」
突然、海成が声を上げた。
その表情には、どこか苦しそうな色が浮かんでいる。
【海】「やっぱりモヤモヤが消えねぇ……」
海成は自分の髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
普段の明るい彼からは想像できないほど、悩んでいる様子だ。
【海】「こんなの俺らしくねぇな!」
その言葉に、諒真が反応した。
【諒】「……海成?」
諒真の声には心配の色が滲んでいる。
試合が終わったのに、海成の表情が晴れない。
それどころか、さっきよりも険しくなっている。
海成は答えなかった。
代わりに、自分の胸に手を当てて深く息を吐く。
【海】(何だこれ……)
【海】(負けたの受け入れたはずなのに、全然気持ちが収まらねぇ……)
【海】(むしろ、腹が立つ)
海成の中で、ある感情が渦巻いていた。
それは、悔しさ。
いや、それだけではない。
【海】(諒真が手加減したんじゃないか)
【海】(本気で来てなかったんじゃないか)
【海】(俺のこと、バカにしてるんじゃないか)
そんな疑念が、心の奥底から湧き上がってくる。
もちろん、諒真がそんなことをするはずがない。
それは頭では分かっている。
でも――。
感情が、それを許さなかった。
海成はゆっくりと立ち上がった。
そして、諒真の方を向く。
その目には、先ほどまでとは違う炎が宿っていた。

【海】「……もう一戦だ」
低く、だが確かな声。
【諒】「え?」
諒真が驚いたように目を見開く。
【海】「俺がお前に負けたって、どうしても受け入れきれねぇ」
海成の拳が、小刻みに震えている。
それは疲労のせいではない。
抑えきれない感情が、体を揺らしているのだ。
【海】「もう一度だ。リベンジさせろ、リョーマ」
その言葉に、諒真の表情が変わった。
驚きから、次第に真剣な眼差しへと。
諒真は何も言わなかった。
ただ、海成をじっと見つめている。
【諒】(海成……)
諒真の胸にも、複雑な感情が渦巻いていた。
【諒】(そんなに悔しかったのか)
【諒】(僕に負けることが、そんなに許せないのか……)
嬉しいような、切ないような。
そして、少しだけ申し訳ないような。
諒真は海成の目を見た。
その瞳には、迷いが一切ない。
本気だ。
海成は、本気でもう一度戦いたいと思っている。
時間が、ゆっくりと流れる。
二人の視線が、空中で交差したまま動かない。
やがて――。
諒真の唇が、わずかに動いた。
第百三幕:諒真の答え
【海】「なぁ、リョーマ。次の試合、受けてくれるよな?」
言いながら、胸の奥に不安がよぎる。
今日の試合で負けた。あの完璧な技の数々に、何もできなかった。
でも――諦めたくない。
諒真は少し間を置いてから、答えた。
【諒】「もちろん受けるよ。受けるんだけど……」
【海】(なんだ? 何か引っかかる言い方だな……)
【諒】(やっぱり言いづらいな……。でも、海成のためだ)
諒真は内心で葛藤していた。
海成は親友だ。
よく顔を合わせる仲だ。
だからこそ、言わなければならないことがある。
【海】「なんだよ、持って回った言い方しやがって……。何かあるなら、はっきり言えよ!」
海成の声が大きくなる。
その焦りが、諒真の心を痛めた。
【諒】(ごめん、海成。でも、これは君のためなんだ)
【諒】「それじゃあ言うけど海成、君は僕に負けっぱなしだよね。次も負けると三連敗になるけど、その覚悟はできているんだろうね?」
【海】「んな!? 三連敗になるだと! 嘘こいてんじゃねぇ!! 俺がお前に負けたのは今日の一戦だけだろうが!!」
【海】(三連敗? 何言ってんだ、こいつ……。俺は今日初めて負けたんだぞ!)
海成は必死に記憶を辿る。
でも――。
諒真の次の言葉が、封印していた記憶の扉を開いた。
【諒】「……まさかと思うけど海成、僕のデビュー戦、夢冠トーナメント2025の予選忘れてないよね? 君は僕にアイアンクローを食らって流血した挙句に、場外に……」
その瞬間――。
海成の脳裏に、あの日の光景が蘇った。
2025年夏。
諒真のデビュー戦だった。
海成は、友達として祝福するつもりで臨んだ。
「リョーマのデビュー戦に華を添えてやるぜ!」
そう思っていたのに――。
リングに上がった瞬間から、流れは最悪だった。
諒真のパワーに押され、アイアンクローをくらった。
頭を鷲掴みにされ、五本の指が頭蓋骨に食い込んだ。
痛い。痛い。痛い。
血が流れた。視界が真っ赤になった。
そして――場外に投げ飛ばされた。
屈辱だった。
【海】「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! やめろぉぉぉぉぉぉ!!! 俺の古傷を抉るんじゃねぇよ、リョーマ!! やっと忘れかけていたのによぉ!!!」
海成は頭を抱え、リングの上に両膝をついた。
【諒】(やっぱり、忘れてたんだ……)
諒真は複雑な表情で海成を見つめた。
あの試合のこと、海成はずっと心の奥に押し込めていたんだろう。
でも、それでは前に進めない。
【諒】「やっぱり忘れてたのか……。本当に覚悟はできているんだろうね? もし次の試合も君が負けたら、どうあっても僕より弱いことが証明されてしまうんだよ」
言いながら、諒真の胸も痛んだ。
【諒】(海成……君は強いよ。でも、覚悟が足りない)
【海】「うぐぉう……リ、リョーマのくせに俺にマウントしてきやがった……」
【海】(チクショー…完全に論破されちまった……。でも、これが現実なんだ)
海成は歯を食いしばる。
【諒】「だから、言いづらくて言葉を濁していたのに……」
諒真が深々とため息をついた。
その姿に、海成はさらに落ち込んだ。
【海】(くそっ…情けねぇな、俺……)
でも――。
心の奥で、何かが燃え始めていた。
あの日の屈辱。今日の敗北。
全部、全部、覚えてる。
【海】(もう逃げねぇ。今度こそ、本気で勝つ!)
海成は立ち上がった。
そして、諒真を指さして叫ぶ。
【海】「おぉ、やってやらぁ! 俺もレスラーだ。二言はねぇ。今度こそお前に勝つ!」
その言葉を受けて、諒真の目が鋭く光った。
【諒】(そうだ、海成。その目だ。その覚悟があれば……)
【諒】「……分かったよ。そこまで覚悟を決めたなら、もう止めない。でも、次はないよ?」
冷たい声。冷たい視線。
でも、それは海成への優しさだった。
甘やかしても、海成のためにならない。
本当に強くなってほしいから、厳しくする。
それが、諒真なりの愛情だった。
【海】(やべぇ…リョーマの目、マジだ……)
背筋がゾクリとする。
でも、もう後には引けない。
ここで弱気になったら、全てが終わる。
【海】「じ、上等だぜ! 俺がリョーマに負けるはずなんかねぇってことを、今度こそ証明してやるぜ!!」
声は震えていた。
でも、目は真剣だった。
【実】「おおっと! 試合後もまだ火花が散っていますよ!」
【観】「次の試合も見たい!」
【観】「海成、頑張れ!」
【解】「二人の因縁は深いですからねぇ。次の対決が楽しみです」
【諒】(いい目だ、海成……)
諒真は内心で微笑んだ。
でも、表情には出さない。

【諒】(次の試合、楽しみにしてるよ)
二人の視線が、ぶつかり合う。
周囲の空気が、ピリピリと張り詰めた。
次の戦いの火種は、もう燃え始めていた。
第百四幕:記念撮影
控室のドアが開く。
試合を終えた二人の体は、汗と疲労でぐったりとしていた。
【横】「おー、戻ってきたな。お疲れさん」
二人にとって先輩であるアウトドアーズの横水が、いつものように軽い調子で声をかけてくる。
【海】「あれ、横水さん!? いたんですか?」
海成が驚いて目を見開いた。
【横】「いたんですか、とはご挨拶だな。お前らの試合が終わる時間に合わせて来てやったんだよ」
横水は腕を組んで、二人の顔を見比べる。勝敗は、その表情を見れば一目瞭然だった。
【横】「それで、試合はどうだった?」
【海】「……この顔見りゃ分かるでしょうが」
海成の声には、明らかな不満が滲んでいる。
【横】「ははは、なるほどな。今回はお前の勝ちだったわけだ、諒真」
【諒】「……はい。辛勝ですけどね」
諒真の声は小さい。勝ったとはいえ、右腕には鈍い痛みが走り続けていた。
【横】「確かにそのようだな。お前たち、随分とボロボロじゃねぇか。やり合いすぎなんじゃねぇのか?」
二人の体には、激しい戦いの痕が残っている。打撲の跡、擦り傷、そして疲労困憊の表情。
【海】「そりゃそうっすよ。リョーマのやつ、やたらに張り切りやがって……何度倒しても立ち上がってくるし」
【諒】「それは僕の台詞だよ。海成がもっと早く諦めてくれれば、僕もこんなに右腕を痛めないで済んだのに」
諒真は左手で右腕を押さえた。また痛みが増してきている。
【横】「まったく……お前も少しは程度ってもんを考えろよ、諒真」
横水が深くため息をついた。
【横】「試合に対する真面目な姿勢は評価するけどな、そんな調子で使い続けてたら、治るものも治らなくなっちまうぞ」
【諒】「それは……そうですよね。気をつけます」
諒真は神妙に頷いた。だが横水には分かっていた。次の試合でも、諒真は同じように戦うだろうと。
海成とは違う意味で試合に熱中する諒真。彼には、自分の身を顧みずに戦ってしまう危うさがあった。デビュー前から諒真を知る横水にとって、それは尽きることのない心配の種だった。
優しげな外見とは裏腹に、中身は海成以上に頑固。それもまた、プロレスラーとして必要な資質ではあるのだが。
【横】「ま、そんなにボロボロになった記念だ。俺が写真撮ってやるから並べよ、お前ら」
疲れ切った二人にこれ以上説教を続けても仕方ないと判断した横水は、スマホを取り出した。
【海】「なんですか、そのボロボロになった記念って……」
【横】「そんなに二人してボロボロになるほど全力出し切れる試合なんて、滅多にないぜ。それに、今日という日はもう二度と来ねぇんだからな」
横水の声には、どこか懐かしむような響きがあった。
【横】「おら、さっさと並べ。先輩命令だぞ」
体育会系にとって先輩の命令は絶対だ。二人はしぶしぶ並んだが、動きがぎこちない。
【横】「なにガキみたいに照れてんだよ。あとでSNSに上げるんだから、もうちょっと映えるようなポーズ取れよ。ほら、肩ぐらい組め」
【海】「えー……」
【横】「えー、じゃねぇ。さっさとやれ」
【諒】「はぁ、仕方ないですね……」
海成と諒真は肩を組んでポーズを取った。親友同士とはいえ、なんとも照れ臭い。

【横】「よーし、そのままこっち向いてろよ……よし、撮れた。ほら、見てみろよ。中々様になってるぜ、二人とも」
【海】「どれどれ……」
スマホの画面をのぞき込むと、そこには試合を終えて穏やかな表情で写真に納まる二人の姿があった。
ボロボロの体、でも、どこか満足げな表情。
それは、全力でぶつかり合った者だけが見せられる顔だった。